プレミアリーグの時間BACK NUMBER
“しごき魔”マガトがフルアムの監督に。
「降格の本命が5チーム」の大混戦。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAFLO
posted2014/02/20 16:30
バイエルンで2度、ヴォルフスブルクで1度のブンデスリーガ制覇を経験しているマガト監督。ドイツ国外での指導は本人にとっても初めて。
プレミアリーグの今季も残り3カ月を切った。今季は史上最大の接戦が予想されている。但し、それは優勝争いではなく残留争いのことだ。なにせ、10位以下の11チームが「降格候補」と呼ばれる状態なのだ。各クラブ経営陣は焦りを募らせる一方で、「候補」のうち6チームが、開幕後に監督の首を挿げ替えている。
最新の事例は2月14日に今季3人目の監督を迎えたフルアム。最下位で迎えたバレンタインデーに、フェリックス・マガトへとラブコールを送り、レネ・ミューレンスティーンには就任75日間で見切りをつけた。昨夏にクラブを買収したパキスタン生まれのアメリカ人オーナーにすれば、いきなり13年ぶりの2部転落というシナリオは想定外だったのだろう。
第三者の立場から見ても、超短命に終わった前体制に単純に同情を寄せることはできない。
昨年12月にコーチから昇格したミューレンスティーンは、監督としてのリーグ戦13試合で10ポイントしか獲得できなかった。FAカップ第4ラウンドでは、3部のシェフィールド・ユナイテッドにも敗れている。26試合終了時点でリーグ断トツの58失点という守備の乱れは、前任者マルティン・ヨル体制での前半戦から変わらないまま。
2月のリーグ戦2試合では、マンUと引分け(2-2)、リバプールと接戦(2-3)を演じたが、獲得ポイントは1で失点は5という厳しい見方もできる。プレミアが20チーム制になってからの過去18シーズンで、降格組が記録した失点数は平均67点。数字から判断すれば、即刻の改善なくして降格回避は難しい。
「恐怖政治」の代表格、マガトの人選は吉と出るか。
しかしながら、マガトという人選は国内メディアで不安視されている。プレミア初のドイツ人監督は「恐怖政治」、「しごき魔」と形容され、本人の祖国からは、「サダム(・フセイン)」、「拷問狂」など、より強烈なニックネームも伝わってきた。
前任地のヴォルフスブルクで鍛えられた長谷部誠のように、従順な日本人選手であれば良いのかもしれないが、ベテランも多いフルアムの欧米人選手たちが、肉体的にハードな練習に耐えられるかどうか? 只でさえ自信を失っている集団は、抑圧的な指導者の下で更に覇気をなくすのではないか? '05、'06年とバイエルン・ミュンヘンで2年連続国内2冠を達成しているほどの実力者の就任に、これほど懐疑的な視線が向けられた監督交代も珍しい。