野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
元横浜・古木克明が格闘家デビュー。
誰が何と言おうと最高の試合だった!!
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2011/01/09 08:01
3ラウンドの戦いの中では何度か攻勢を見せた古木。2ラウンドでは、アームロックをほとんど極めかけていたのだが……
某球団が古木獲得の調査を開始と噂もあったが……。
だが、古木はその期待に応えようと必死だった。
肉体改造、目の手術、師匠の小路晃選手について過酷なトレーニングをこなしながら、一歩ずつ格闘家への道を歩んでいた。しかし、格闘技の世界も甘くはない。「1年やそこら練習しただけで総合は厳しい」。聞こえてくるのはそんな意見ばかりである。
「僕は客寄せパンダになるつもりはありません、本気で勝てる格闘家になります」
7月の千葉マリンスタジアムで行われたトークショーでそんなことを言っていた古木は、試合前の始球式を上半身裸で投げた。団体のPR役としてなりふり構ってなどいられなかったのだろうが、なんというか、もう……苦笑いしか出てこない。
そんな折、とある確かな筋から「某球団が古木を獲得するため調査に動いている」という情報が耳に入った。今からでも遅くはない。カッコ悪くても、なんでもいい。頼むからグラウンドに戻ってきてほしい。
その情報が古木の元に届いたかどうかはわからない。ただ、結果として古木はリングに残った。
否応なくついて回るドラ1のプロ野球選手という肩書。
顔面骨折など不運なケガもあり、デビューの時期がずれ込んだ結果、古木の初戦の舞台は格闘技史上最大の大会、大晦日のDynamite!!に決定した。相手はアンディ・オロゴン。打撃がウリの強敵である。
現役時代、外国人投手と相性はよかった気はするが、格闘技ではさすがに勝手が違う。
「野球界では一発が売りでしたが、Dynamite!!でも必ず一発打ちますよ」
試合前の記者会見でそんな発言をする古木をみてやるせなくなった。確かに、元プロ野球選手が最大のウリであることは間違いないし、そうでなければこんな大舞台に立てるはずもない。わかっているのだが、心では野球とは決別していても、結局は野球に関した質問が飛び、それに準じた答えをしなければならない。
それは古木だけではない。どこの世界へ行ったとしても、元プロ野球選手という肩書き、そしてドラフト1位の期待というのは、本人が望む、望まないにかかわらず、その後の人生に否応なくついて回るという。
そして、結果が出なければ総じてこう言われる。
「アイツは野球でも期待外れだったから」
古木もまた、その運命と向かいあっていた。