ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
「See You On The Trail」
4200km踏破で見えたもの。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byYusuke Ide
posted2013/12/13 10:30
4200kmを踏破し、PCTのゴール地点に辿りついた井手くん。
旅を通して強く感じた、前向きな敗北感。
ロッジには、先行していたバックパッカー達の姿もあった。彼らが半日先を歩いてくれたからこそ、トレイルが完全に雪に埋もれずに済んだのだ。最後まで、周りに助けられてしまった。この旅を通して強く感じたのは「俺ってなんにもできねーな」という、前向きな敗北感だった。それをきちんと受け止められている自分が、少し好きになれた。
恋しくてたまらなかった湯船に頭を何度も沈め、ベッドに横になる。なかなか寝付くことが出来ない。しかしそれは、決して悪い気分ではなかった。きっと横で寝ているLucky Manも同じだろう。
夜中に謎の鼻血を出してしまい、慌てて洗面所に行くと、なんと相棒も同じように鼻血を出していた。久しぶりに大声で笑う。緊張感が一気に溶けた。そんな笑いだった。
「何を言ってるんだ。最後まで一緒に歩こう」
1週間前、最後のリゾート地Stehekinでの一夜を思い出す。パソコンでチェックした天気予報に真っ白になった僕は、彼に思いきって打ち明けた。
「実はWhite Passを出た後に、山の中でパニックになってしまったんだ。何を恐れていたのか自分でもわからないけれど、とにかく動悸が止まらなかったんだ。今、僕の心境はそれに近い。もしも、朝起きて気持ちがこのままだったら、僕は君から離れるよ。雪の中で足手まといが増えては迷惑だからね」
少し沈黙があって、彼は返してくれた。
「何を言ってるんだ。一緒にここまで来たんだろ。最後まで一緒に歩こう。それに、お前がいなかったら、誰がゴール地点で俺の写真を撮ってくれるんだ。シャシンカ、大丈夫。あと4日の我慢だから」
「我慢」という言葉を彼が使ったのは、きっと彼もまた同じ心持ちだったからだろう。彼の強気な姿勢に負けるものかと、自分を奮い立たせて、ベッドに潜った。それは、このリゾート地に着くまでの、最後の温かい眠りだった。
夜中に何度も雨音で目が覚めた。酷い汗をかいている。大丈夫、あと4日だ。隣で静かに寝息を立てている相棒を見て、閉じられない目を閉じた。