ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
「See You On The Trail」
4200km踏破で見えたもの。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byYusuke Ide
posted2013/12/13 10:30
4200kmを踏破し、PCTのゴール地点に辿りついた井手くん。
旅を通して出会った、それぞれの人生のその後。
この旅を通して獲得したもの。それは根性でも体力でも知性でもなく、きっと本当の友人を数多く持てたことだろう。お互いに寄りかかったものではなく、それでいてオープンな友人関係。
共にシエラネヴァダの激流を渡ったAlexとは、サンフランシスコで再会をした。Cascade Locksで旅を終えた彼は、それまでのヤッピー的生活から、少しずつライフスタイルをシフトしたいと話していた。僕の希望でシティライツ書店に向かいビート文学を手に取っていると、彼は真面目な顔をして言った。「俺も昔はブコウスキーとかが大好きだったんだ。なあ、ユースケ、思い出させてくれて本当にありがとう」
シドアンドナンシー夫妻は、「フリップ・フラップ」と呼ばれる、セクションハイクを繰り返すやり方でPCTを完歩したという。
2年後にはアメリカ中部のコンチネンタル・ディバイド・トレイル(CDT)という難関トレイルに挑戦したいと、ガス・ヴァン・サントの映画『パラノイド・パーク』でロケ地となったスケート公園で焚き火に当たりながら話してくれた。
Lotus とHermesのカップルは、結局ポートランドに移住することを決めたらしい。今回の旅でお金も住む場所もなくなってしまったので、サンフランシスコ郊外に住む友人のマリファナ栽培を手伝いながらお金を稼ぐ日々が待っているという。(結構儲かるらしい。もちろん要ライセンス)同じく、2年後にCDTを歩く予定だ。
「今度来る時は奥さんと子どもを連れてこい」
Tedと Mihokoさんは来年からトレイルエンジェルとして、日本人限定でサポート活動をするという。
「今度来る時はお前の奥さんと子どもを連れてこい。もっとも、その時の俺はボケちまってお前をわからないかもしれないがな」
最後まで軽口をたたくTedだったが、彼らの最寄りの駅でBakers Field行きの電車を待つ間には言葉に詰まり「鳥の鳴き声がするぞ」などと沈黙を揉み消すように、ひたすらしゃべり続けていた。
Mihokoさんに持たされた手作りのお弁当は明らかに2人前以上あって、長旅の車中で蓋を開けて一人で笑ってしまった。
「ミホコさん。俺、こんなに食えないよ」