ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER

「See You On The Trail」
4200km踏破で見えたもの。 

text by

井手裕介

井手裕介Yusuke Ide

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photograph byYusuke Ide

posted2013/12/13 10:30

「See You On The Trail」4200km踏破で見えたもの。<Number Web> photograph by Yusuke Ide

4200kmを踏破し、PCTのゴール地点に辿りついた井手くん。

終わってしまう、シャシンカと呼ばれた日々。

 しかし、そんな感情は4200kmの道のりの序盤に消えていた。自分一人でここまで来ることは出来なかったし、本当に沢山の素晴らしい出会いに支えられた。仲間たちのサポートが、僕をここまで歩かせてくれたのだ。驕りはない。とにかく感謝の気持ちでいっぱいだった。サインブックに書くことは感謝の言葉以外にないだろう。

 最後に“Syashinka”のサインを添えた。名付け親のRogerからは2週間ほど前にメールをもらい、無事にカナダにたどり着いたことを知った。本当に嬉しい。シャシンカと呼ばれた日々が終わってしまうことに気付くと、途端に感傷的な気持ちになる。町に降りて郵便局に駆け込むことも、スーパーで高カロリー食をまとめ買いして驚かれることも、汚い服装をランドリーに突っ込むことも、もうなくなるのだ。

トレイルは誰にでも開かれている。正解も不正解もない。

 トレイルは誰にでも開かれている。そこは誰かとスピードを競うレース会場ではないし、皆が自分自身の旅をすることができる。“Hike on your hike” という、バックパッカーたちの合言葉は、そんなトレイル文化を端的に表しているのだ。

 後方から来るはずの仲間たちに思いを馳せる。峠で再会したBeerとRanchはどんな気持ちでゴールを迎えるのだろうか。吹雪に震えながらトレイルと車道との最後の交差位置にたどりついた時、峠に停められた車から降りてきた彼らを、僕はどこか非難めいた目で見てしまったが、彼らは彼らの納得いく形で旅をしただけだ。そこに正解も不正解もない。

 GOKUさんは100マイルほど後ろの位置にいるはずだ。吹雪はまさにドカ雪で、1日で足首高まで積もってしまった。僕はギリギリのタイミングだったはずだ。

 仲間たちのことを考え、無事を祈る。無理はしないでほしい。自分がゴールした時に他人のことを考えられているのが信じられない。僕はそんなに優しい人間だったのだろうか。

 それまでのマイル表示がキロメートル表示となり、カナダ側に足を踏み入れたことを感じる。そこから8マイルを歩き、本当のゴール地点Manning Parkへとたどり着く。雨に打たれながら、僕達は公園内のロッジにチェックイン。BGMに流れていたMichale Bubleのポップな歌声が、ニール・ヤング的な世界が終ってしまったことを気付かせてくれた。とても静かな幕切れだった。

【次ページ】 旅を通して強く感じた、前向きな敗北感。

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