野ボール横丁BACK NUMBER
「もういいです、悲劇のヒーローは」
斉藤和巳が引退を決めた、“0と1”。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2013/11/25 10:30
2006年のプレーオフ、王貞治は闘病でベンチにはいなかった。「監督の待つ福岡に戻ろう」というのがチームの合言葉だった。
「もういいです、悲劇のヒーローは」
結果的に、この試合で肩の不調を感じながらも無理したことが翌年以降の不振を招いた。
「キャンプ中盤から、これはおかしいと思った。それでシーズンに入ると、投げた後2、3日は、肩のライン以上まで腕が上がらなくなった。もう痛みを超えていましたね」
リハビリ6年目となった今季、斉藤は、支配下選手登録の期限である7月いっぱいで「今月に入ってイメージが持てなくなった。けじめをつけるのが一番」と退団を決意した。
昨年春、斉藤はこう語っていたものだ。
「自分の中で可能性がゼロになったら終わり、1%でもあったら、それにかける」
つまり、退団は「ゼロ」になったことを意味している。
結局、「時が止まったまま」終わってしまった。
斉藤はあの試合に関して、こうも語っていた。
「悲劇のヒーローのままなんでね。もういいです、悲劇のヒーローは」
だが、時が止まるほどの瞬間を持てたこと。それは、プロ野球選手として、これ以上ない幸せだったのではないか。
記録にも記憶にも残る選手だった。