プロ野球亭日乗BACK NUMBER
楽天日本一の“陰のMVP”則本昂大。
マー君の有終を支えたルーキー右腕。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNaoya Sanuki
posted2013/11/04 12:10
優勝トロフィーを掲げてメディアへアピールする田中や美馬と一緒に、喜びを爆発させていたルーキーの則本(左)。
激しく降り注ぐ雨の中、地鳴りのような「マー君コール」が背中を押した。
3点リードの9回2死一、三塁。一発浴びれば同点の場面で、楽天のエース田中将大が最後の力を振り絞って腕を振った。
142キロのスプリットに代打・矢野謙次のバットが空を切る。その瞬間にマウンドで田中が両手を突き上げると、そこに女房役の嶋基宏が飛び込んで抱き合った。その輪に一塁から銀次が、三塁からケーシー・マギーが、そして次々にナインが飛び込んで、クリネックススタジアム仙台に歓喜の花が咲き乱れた。
球団創設9年目。楽天が東日本大震災という苛烈な試練を乗り越えてきた東北に、日本一を届けた瞬間だった。
「もう最高! 東北の子供たち、全国の子供たち、被災者の皆さんにこれだけの勇気を与えた選手たちを褒めてやってください!」
選手の手で9回、仙台の夜空に舞った監督の星野仙一が絶叫した。
「最後にオレを泣かせてくれよ」
苦しい戦い。王手をかけ、無敗のエースで勝利を確信して臨んだ第6戦に敗れて、土壇場まで追い込まれた。
「最後にオレを泣かせてくれよ」
前日のミーティングでは、星野監督が直接選手にこう語りかけた。
「オレがミーティングをやったときは必ず勝っていたんだ。だからそういう験を担ぐ意味もあった」
こうして悲願達成のためにやれることはすべてやり尽くした指揮官が、最後の“武器”として、懐に持っていたのは、一人の投手だった。
則本昂大。
星野がこの投手を“切り札”とすることを決めたのは、シリーズ開幕直前のことだった。