プロ野球亭日乗BACK NUMBER
楽天日本一の“陰のMVP”則本昂大。
マー君の有終を支えたルーキー右腕。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNaoya Sanuki
posted2013/11/04 12:10
優勝トロフィーを掲げてメディアへアピールする田中や美馬と一緒に、喜びを爆発させていたルーキーの則本(左)。
CSでの田中の起用法で目算が狂った楽天。
日本シリーズ進出に王手をかけたクライマックスシリーズ(CS)のファイナルステージ第4戦。星野は万全を期して「シリーズに向けた調整に専念したい」と申し入れていた田中をあえてクローザーで投入した。しかし、このエース投入が日本シリーズに向けた首脳陣の青写真に狂いを生むことになった。1、5戦に先発させ6、7戦ではリリーフ待機を計算していた田中が、調整面の問題から2戦と6戦の先発を希望。首脳陣もそれを了承するしかない状況になってしまったのだった。
そしてその瞬間に、シリーズの“切り札”は田中から則本に変わったのである。
「オレは試合の最後から逆算してゲームを考える」
そう語ってきた星野にとって、今の楽天の最大の悩みがリリーフ陣の層の薄さだった。シーズン中のクローザーは青山浩二、ダレル・ラズナーに最後は斎藤隆と“使い回し”て何とか凌いできた。それでもどの投手も、日本シリーズの最後を任せるほどの絶対的な信頼には欠けるのが現実だった。
「勝てる試合をどうやって確実に取れるかが短期決戦の鉄則。そのためには誰かにムリをしてもらわなあかん」
そうして指揮官が指名したのが則本だった。
「自分は気持ちで投げるタイプ。意気に感じてマウンドに上がりたい」
そう語ってきた則本も、指揮官の過酷な要求に見事に応えてみせたのだった。
「自分が与えられた場面で頑張るだけ」
実はCSファイナルステージの第4戦で、則本も田中と同じようにリリーフ登板している。しかし、そのまま中4日で初戦の先発マウンドに立つと、この試合は巨人のエース・内海哲也と渡り合って8回124球を投げて2失点で負け投手となった。そこから中3日で第4戦はベンチ待機。そして2勝2敗で迎えた第5戦では2点をリードした6回からリリーフ登板した。
この試合では9回に同点に追いつかれはしたものの、延長10回に自ら選んだ四球を足場に銀次の中前タイムリーで勝ち越しのホームに滑り込むと、その裏まで5イニング79球を投げて勝ち投手になった。
「信頼してもらっているのが嬉しい。その期待に応えたいし、監督が一番、1勝の重みを分かっているのだと思う。その期待に応えるだけでした」
試合後にはこう語った則本は、仙台に帰った残り2試合に向けてもスタンバイ。
「行けといわれたらいくだけ。自分が与えられた場面で頑張るだけ」
こう語って6、7戦もベンチ入りした。