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<イチロー、運命のオリックス入団> ドラフト秘話 「本当は1位指名もあった」
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2013/10/24 06:00
ドラフト3位で指名できなかった“しがらみ”とは?
「ベテランスカウトの木庭(教)さんと、フロント入りしてた上田(利治)前監督が、萩原淳で行こうと言った。イチローは線が細い、萩原と比べても非力だと言うんだな。萩原を推す木庭さんと、鈴木を推す中田さんが言い合いになって、最後の追い込みで中田さんと三輪田さんがみんなにそのビデオを見せたんだ。『これはいい』と大騒ぎして、宣伝してた(笑)。そもそも萩原は大洋が囲ってて、大洋にしか行かないと言ってたんだけどね」
その前年まで大洋のフロントにいた木庭は、萩原を大洋が狙っていることを知っていた。しかし感情的対立からオリックスへ移ったこともあり、木庭には大洋の鼻を明かしたいという思いもあった。結局は年長者の意見が通り、萩原がイチローより上の評価となる。
しがらみは、もう一つあった。
3位で指名した三菱重工長崎の投手、本東洋(もとひがし・よう)である。本東の名前は、シミュレーションボードの3位の欄に最初から書き込まれていた。当時の事情を当銀さんが明かす。
「本東は3位なら来るという話だった。ウチががんじがらめに囲っていて、他球団からの指名を断らせた手前、3位固定で指名しないわけにはいかなかった。だからイチローを3位で、というわけにはいかなかったんだな」
蓋を開ければ、田口はオリックスと日本ハムが競合し、オリックスが当たりクジを引いた。萩原を評価していた大洋は1位で東北福祉大の斎藤隆を入札するも、中日と競合。大洋が当たりクジを引く。その結果、オリックスと大洋が2位で萩原淳を入札した。1位ではともに当たりくじを引いた大洋の須藤豊監督とオリックスの土井正三監督が抽選に臨み、またも土井監督が当たりクジを引いた。
打撃で評価していた中日が指名しなかった幸運。
1位田口、2位萩原淳、3位に本東。
当銀さんは、さすがに4位にイチローは残っていないのではないかと予想していた。
「イチローを上の順位で指名するとしたら中日だろう、と。バッティングで評価していたのは中日とウチくらいだったからな」
しかし中日は2位で徳島商の投手、佐々木健一を、3位で佐賀学園の内野手、高校通算46本塁打の若林隆信を指名。4位で鈴木一朗を入札したのは、オリックスだけだった。
もしもの話ではあるが、1位の田口をオリックスが外し、さらに斎藤隆を大洋が外し、萩原を両球団が外れ1位で競合したとしたら、そのクジ次第で、オリックスは鈴木一朗を1位で指名していたのである。