Jをめぐる冒険BACK NUMBER
浦和、川崎を圧倒してナビスコ決勝へ。
「奪う力」で取り戻した理想のサッカー。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byAFLO
posted2013/10/17 10:30
攻撃力こそが浦和の最大の武器だが、その武器を生かすためにも守備の意識は必須。ハードワークを厭わないテクニシャンは、強い。
マンC、バイエルンから受けた運動量の刺激。
「試合前、(鈴木)啓太さんから、奪われた瞬間から6秒間は追いかけよう、と言われていた。それが上手くハマったと思います」
その鈴木自身が「原口だけでなく、みんなに言ったんです。それを、みんなが意識してくれたなら嬉しいですね」と振り返れば、槙野がそれについて補足する。
「チャンピオンズリーグのマンチェスター・Cとバイエルンの試合を見たりしましたけど、トップレベルの選手があれだけ走って前から守備をするんだから、俺たちもやらなければならないと。走ることもそうだし、切り替えの部分も意識しようと話していました」
相手からボールを奪い、マイボールにしないことには攻撃は始められない。「攻守は表裏一体」と言われるが、圧倒的な攻撃力の裏には、共有された守備の意識があったのだ。
ひるがえって、川崎はどうだったのか。
「これだけボールをロストしてしまっては……。もっと自信を持って自陣でボールを持てればよかったのですが、今日はかなり消極的になってしまった」
と風間八宏監督が嘆き、
「チャンスのときに雑でしたね。相手のプレスに焦ったのか、全然つなげなくて、ボールをまったく貰えなかった」
と大久保嘉人が怒り、
「押されているときこそサポートを増やし、回せるようにしなければならなかった」
と山本真希が悔やんだように、パスをつなげなかったこと、すなわち、自分たちのサッカーができなかったことを敗因に挙げている。
いい形で奪わなければ、強みも発揮できない。
たしかに、そうなのだと思う。だが、パスをつなぐためにはまずボールを回収する必要がある。どこで、どうやって奪うのか――。ボールを取り戻すための共通意識やボールへの執着心がすっぽり抜け落ちていたようでもあった。
川崎は選手それぞれが担当エリアを決めてブロックを築き、相手のパスコースを消したり、パスの選択肢を狭めたりする守備戦術を採っている。そのため、前線から徹底的にプレスをかけた浦和と同じ土俵で語ることは難しい。
とはいえどちらの守備戦術でも、攻撃を仕掛ける原点がボールを奪い取る力にあるのは変わらない。できるだけいい形でボールを取り戻さないことには、この日の川崎がそうだったように、ボールを保持したときの強みも発揮できない。