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「孤独」の深さを教えてくれた、
60代のひねくれた友達。 

text by

井手裕介

井手裕介Yusuke Ide

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photograph byYusuke Ide

posted2013/09/08 08:01

「孤独」の深さを教えてくれた、60代のひねくれた友達。<Number Web> photograph by Yusuke Ide

井手くんがお世話になり、色々なお話をしてくれたTed&Mihoko夫妻。

無意識にTedの幻影を求め、目が泳ぐ。

 翌朝、再び峠に着いた。ハイウェイと交差しており、何台か車が停まっている。無意識にTedの幻影を求め、目が泳ぐ。

「まったく、仕方ねえな」

 自分の弱さを笑う余裕が出てきた。

 そこでも、エンジェルがハイカーをもてなしており、簡易テーブルと椅子が用意されていた。椅子に座るSweat Jesusが目に入る。

 彼は僕と別れた後、翌朝の雨におとなしく停滞を決めたのだ。おかげですっかり気分もよくなったという。

 さすがだ。雨の中歩いた結果遭難してしまった僕より、彼の方がどんなにかスマートなことか。再会を喜び、自分の今の気持ちを正直に伝える。

 彼は序盤を共に歩いた21歳のHoneycombというバックパッカーをここで待つらしい。

「よかったらシャシンカも一緒に歩かないか」

 彼の提案を快諾する。

 実は、僕はそれまで、出来るだけ人と離れて歩くようにしていた。そっちの方が楽だし、自由に自分のペースで、静かに山を愉しみたかったからだ。

 それでも、今僕は誰かを求めていた。4時間ほどHoneycombを待ち20歳前後の若手トリオを結成して歩き出す。

 歳が近いこともあり、話が弾む。お互いの夢を語ったりもしたが、山を歩きながらでなければ、そんな恥ずかしい話は出来なかっただろう。

「スケサン」ってのはなんだい?

 お互いの生い立ちについて語り、僕の名前がユースケだと言うと、Honeycombが尋ねてくる。

「そういえば、『スケサン!』ってのはなんだい?」

 僕がキョトンとしていると、彼は説明を足してくれる。

「日本の時代劇を見ていると『スケサン!』『スケサン!』って聞こえてくるんだ」

 僕は大声で笑う。それは『水戸黄門』の登場人物の名前だ。

【次ページ】 またひとりぼっちになってしまった。

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