ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
「孤独」の深さを教えてくれた、
60代のひねくれた友達。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byYusuke Ide
posted2013/09/08 08:01
井手くんがお世話になり、色々なお話をしてくれたTed&Mihoko夫妻。
またひとりぼっちになってしまった。
そうして3人でたどり着いたのは、ネバダ州とカリフォルニア州の境の町South Lake Tahoe。この町はネバダ州側のカジノと、山スキーで有名な観光地だ。
サンフランシスコから車で40分ほどらしく、バックパッカーたちの中には、家族や恋人と過ごす人も出てきた。
Sweat Jesus、Honeycombの二人も、母や従兄弟が応援がてら駆けつけるということで、町に入る前の峠で別れることになった。また、一人ぼっちになってしまった。
それでも、トレイルで出会ったセクションハイカー(トレイルの一部区間だけを歩くハイカー)とモーテルを借り、カジノを見に行ったりと楽しく過ごした。
彼が出身地のシアトルに帰ってしまい、淋しくカジノの通りを歩いていると、流しのギター弾きがギルバート・オサリバンの有名なナンバーを弾いていた。
こんな時になんて選曲だろうと思いながらぼーっと聞いていると後ろから声がする。
「シャシンカ! ユースケ!」
振り返れば、序盤からの顔なじみカップルLotus とHermes、そしてHummingbirdだ。
嬉しくなって思わずハグ。自分からハグをするなんて、僕もすっかりアメリカに染まったものだ。
翌朝一緒にトレイルに出ることを約束して別れる。ギター弾きが、僕たちを弾き合わせてくれたのだ。聞こえていたのは「アローンアゲイン」。
まったく、物騒な歌だ。カジノで勝ったのであろう観光客と同じように、僕は1ドル紙幣を彼の帽子に挟んでモーテルへの家路についた。
独立記念日も、蚊の大群と過ごす。寂しい。
翌朝は地元のアウトドアショップのオーナーが車を出してくれた。独立記念日による瞬間風速的なインフレから逃げるように、トレイルへ繰り出す。
独立記念日。山から花火が見えるかと期待していたが、聞こえてきたのはテントの周りに纏る蚊の羽音だった。残念過ぎる。今頃アメリカ人たちは家族や友人、恋人と楽しく過ごしているのだろうか。
寂しい。蚊の大群は、僕の心の隙間を埋めてはくれない。文庫本を読むのに疲れた目を閉じ、眠りについた。