ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
「孤独」の深さを教えてくれた、
60代のひねくれた友達。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byYusuke Ide
posted2013/09/08 08:01
井手くんがお世話になり、色々なお話をしてくれたTed&Mihoko夫妻。
別れを告げた時、彼の声は震えていた。
登山口に車を停め、別れを切り出そうとすると、彼は体を伸ばしながら言う。
「俺も少し山を歩こうかな」
僕は少し間を置いて、おどけてみせる。
「カナダまでかい?」
少しだけ一緒に歩くと、トレイルエンジェルによる炊き出しが行われているのが目に入った。
顔見知りのバックパッカーが僕に声をかける。僕も嬉しくて手を振ると、Tedが僕の肩を強く掴んで言った。
「さようなら。ユースケ」
なんて簡潔な言葉だろう。
彼の声が震えているのに気づいた時には、彼は炊き出しの輪から逃げるようにいなくなってしまった。
僕はこの旅で、何度泣けばいいのだろう。
Ted、どうしてお前が泣いているのさ。孤独が好きなんだろう。僕がいなくなって、また静かにミホコさんと暮らせるじゃないか。
我慢していた感情が溢れてくる。
エンジェルが用意してくれた椅子に座ると、涙が出てきた。綺麗に洗濯してもらったTシャツが、涙で湿っていく。
僕はこの旅で、何度泣けばいいのだろう。