プロ野球PRESSBACK NUMBER
2度のトレードを経て西武入りの32歳。
ジャーニーマン・渡辺直人の“愛着”。
text by
加藤弘士Hiroshi Kato
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2013/08/06 12:10
渡辺直人は、古巣のファンからの声援に手を上げて応えた。彼の野球を巡る冒険は、まだまだ終わることなく続いていく。
「一軍をあきらめて、もういいかとは思えなかった」
「チームの中でもいい年をこいてきたから、一軍をあきらめて、もういいかとは思えなかったんです。やっぱ、一軍でやりたかった。歳をとっていようが、ルーキーだろうが、ゲームに入ってグラウンドに立ってプレーするのに、年齢は関係ない。だからもう一度、勝負したいと思って、ファームでもしっかり練習をしてきました」
そして今年7月。届いたのはライオンズからのオファーだった。長田秀一郎とのトレードが成立し、直人は西武の一員になった。
実は以前から、ライオンズには強い興味を抱いていたと言う。
「中島(裕之)がメジャーに行って、おかわり君(中村剛也)や片岡(治大)がケガをしている。主力が抜けて、苦しいですよね。それは他球団にいても分かります。それなのに、なんで上位にいるんだろう。なんで負けないんだろうって、ずっと関心があったんです。なんで西武って強いのか。なんで若い選手が育ってくるのか。そんな時に西武の誘いがあったから、『ああ、これはまた、野球を勉強できるな』って、うれしかった」
渡辺直人のプロ生活は、まさに「ジャーニーマン」である。
米国のプロスポーツでは何球団も渡り歩く選手のことを「ジャーニーマン」と呼ぶ。まだ3球団ではあるが、直人の野球に対する好奇心、探求心はまさに「旅人」のそれを彷彿とさせる。
「プロ野球選手の大半は『プロになりたい』って思いながら多分、ずっとやってきたと思う。僕は今まで一度も、そう思ったことがないんです。なぜ野球を続けてきたかというと、中学、高校、大学、社会人とそのチームで、中心にいたかったんです。チームで大切な存在になりたかった。ずっとそう。『お前は必要』と思われたい。全国区の、街を歩いていて『渡辺直人だ』と言われるぐらい有名になりたいとか、全然ない。今だったら西武で『お前は絶対に必要だよ』と思われたいんです」