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2度のトレードを経て西武入りの32歳。
ジャーニーマン・渡辺直人の“愛着”。
text by
加藤弘士Hiroshi Kato
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2013/08/06 12:10
渡辺直人は、古巣のファンからの声援に手を上げて応えた。彼の野球を巡る冒険は、まだまだ終わることなく続いていく。
トレードで楽天やDeNAに対して嫌な思いは全くない。
楽天、DeNA、そして西武。2度のトレードを経て、今回が3球団目になる。徐々に変わりつつあるとはいえ、日本社会ではいまだに終身雇用が維持されている。それは日本球界も同様だ。「生え抜き」という言葉がプラスの文脈で使われ、トレードは時に「放出」と言い換えられることもある。
思えば2010年12月9日、楽天から横浜に金銭トレードが決まった直人も、会見では涙を浮かべていた。今あらためて、あの時の涙の意味と、自らの「トレード観」をこう語ってくれた。
「トレードで楽天やDeNAに嫌な思いは、全くないです。恨みなんて全くない。泣いたから勘違いされるかもしれないけど、涙はチームメートと離れる寂しさからであって、恨みからくる涙じゃない。周りにはどう思われてもいい。でもやっている本人はトレードに負のイメージはまったくないですよ。
プロ入りした頃、トレードって自分には無縁だと思っていたんです。でも今ではベストを尽くして、行ったところでチームの力になるために頑張ろうと思っています。頑張れる環境を与えていただいた。幸せ者だと思いますよ。自分を育ててくれた楽天には感謝しているし、横浜は今まで知らなかったプロ野球の世界を見せてくれた。二塁や代打、控えや二軍を経験させてくれたのもベイスターズですから。そして、西武はそんな二軍選手をとってくれた。すべてに感謝しているんです。
野球界はどこのチームに行こうが、12社しかない。世の中にはこんなにたくさん会社があるのに、ですよ。みんなつながっているじゃないですか。だから、離れたチームメートと試合をできる楽しみもある。ヘンな思いを抱くより、それを楽しみたい。出会った人とか、すべてを自分の財産にしたいんです」
一軍の練習場の傍に住みながら、仕事場は遠い二軍の地。
それでもここ数年は、気持ちが滅入ることがあったに違いない。
昨年5月の左肩の負傷をきっかけに、完治後もファーム暮らしが長くなった。中畑DeNAの内野陣は若手が台頭し、自然と世代交代が進んでいった。直人は横浜スタジアムに近い、みなとみらい地区に居を構えている。華やかな一軍の舞台は、地理的にすぐそばにあった。それでも「仕事場」は二軍施設のある横須賀だ。
ハマスタは近くて、遠かった。