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2度のトレードを経て西武入りの32歳。
ジャーニーマン・渡辺直人の“愛着”。 

text by

加藤弘士

加藤弘士Hiroshi Kato

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2013/08/06 12:10

2度のトレードを経て西武入りの32歳。ジャーニーマン・渡辺直人の“愛着”。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

渡辺直人は、古巣のファンからの声援に手を上げて応えた。彼の野球を巡る冒険は、まだまだ終わることなく続いていく。

 渡辺直人のグラブは相当、使い込まれている。茶色が黒っぽく変色した、かなりの年季モノだ。プロ野球選手はもちろんのこと、今時、高校球児でもこんなボロボロのグラブは使わないだろう。学校の体育倉庫で山積みにされた、授業で使うソフトボール用のグラブ。限りなくあの色に近い。

「渡辺 2」の刺繍は、'07年の楽天入団時に入れたものだという。6年間ずっと、同じグラブを使い続けている。

「かなり、ボロボロになっちゃいましたよね。手入れはちゃんとしていますよ。やっぱり、愛着がありますから。自分、モノにもチームにも、愛着が湧きやすいんです」

 最も愛着がある場所。それはプロ入り後の4年間、命懸けでプレーした仙台だった。

敵地にもかかわらず、仙台に鳴り響いたファンの歓声。

 2013年7月12日、Kスタ宮城での楽天vs.西武戦。3-3の同点で迎えた延長12回、杜の都が沸き上がった。先頭の代打に、渡辺直人がコールされたのだ。7日にDeNAから西武へと移籍したばかり。新天地でのデビュー戦は奇しくも、古巣とのマッチアップになった。

 3球目、左腕・星野智樹のチェンジアップを振り抜く。直人らしい右打ち。右翼線二塁打だ。夜空に大きく拳を突き上げ、喜びを爆発させた。犠打で三塁へ進み、大崎雄太朗の右犠飛で決勝のホームを踏んだ。レジェンド・ブルーのユニホームを身にまとい、初のヒーローインタビュー。

 敵地にもかかわらず、仙台のファンの歓声は鳴りやまなかった。

「緊張していましたよね。たかがツーベースで、あんなにガッツポーズするのも初めてだったと思う。野球の神様が見ていてくれたと思うぐらいの、今までで一番嬉しいヒットだった。あれはもう、忘れないですね」

 歓喜の瞬間、頭の中に浮かんだのは、DeNAのファームでともに雌伏の時を過ごした、同世代の仲間の顔だったという。

「(森本)稀哲、後藤(武敏)、小池(正晃)、そして自分も含めた4人は同級生なんですよ。オレらはもう決して若くはないけど(32歳)、まだまだできるというのを見せたかったんです」

【次ページ】 トレードで楽天やDeNAに対して嫌な思いは全くない。

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