ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
ハイカーたちの「天国」と、
モハベ砂漠で出会った“昔の友達”。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byYusuke Ide
posted2013/07/11 11:05
ヒッピーの家で色々とやらかして有名人になった「シャシンカ」井手くん(右端)。
アメリカの大手アウトドアマガジン『backpacker』誌の最新号のタイトルは「HIKER HEAVEN」。
奇しくも、僕が「Agua Dulce」(アグアダルシェ)という道の駅で滞在したのは、ハイカーから「Hiker's heaven」と呼ばれる、有名なエンジェルSaufleys(ソーフリーズ)夫妻の家。
「そんな大言壮語な」と眉唾に思っていたが、苦労して辿り着いたそこは僕たちハイカーにとって、まさに天国だった。
夫妻の家には各地からエンジェルが集結しており、洗濯、シャワー、荷物の郵送など、僕たちが必要とすること全ての手配をしてくれる。庭には大型のテントが幾つも建てられ、ハイカーはキャンプをして身を休めることができた。
まさに、選手村の様相。ここはこれから始まる砂漠越えにおける前線基地なのだ。
中でも嬉しかったのは、ロサンゼルスのREIという大型アウトドアショップに車で連れて行ってくれたことだ。
ハイカーの多くは新しい靴を必要としていた。既に700km以上を歩いてきたので、ソールが剥がれていたり、爪先が破れていたりする。多くのハイカーはPCT(パシフィック・クレスト・トレイル)全行程を踏破するまで、4足から5足シューズを履きつぶしてしまうらしい。
幸い、僕自身は靴も含めて必要な物はなかったが、アウトドア本国であるアメリカのマーケットを見たいと思い、車に乗り込んだ。
実際には、それ以上に楽しみなことを求め、LAに向かったのだが。
大学の友人とLAで再会して語った、大学、サークル、将来のこと。
1カ月前に飛行機で降り立ったこの地に、歩いて戻ってきたことを考えると随分と不思議な感覚だ。
僕は目的地に着くや、REIには向かわず、近くのネイルスパに向かった。店に入り、スパを頼むでもなく、Wi-Fiをかしてほしいと頼む。お客さんでもない僕に、スタッフは嫌な顔ひとつせずパスワードを教えてくれた。
大学の友人にメールを送る。彼女はLAに住んでおり、ここで落ち合う約束をしていたのだ。
「着いたよ。会えるかなあ。ネイルスパの前にいます」
彼女は僕と同じように大学を休学し、フロリダの語学学校に留学した後、ハリウッドのタレント事務所でインターンシップをしている。
しばらくすると、遠くから見覚えのある日本人の女の子が手を振って現れた。感動した僕は思わずハグしてしまう。
彼女と過ごしたのはスターバックス、そしてウェンディーズ。今になって思えば、どうしてわざわざ渋谷でも楽しめるようなデートコースになってしまったのだろうか。
いずれにせよ、久しぶりの再会は僕を饒舌にさせた。大学のこと、サークルのこと、将来のこと。場所はどこだって良かった。