ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER

ハイカーたちの「天国」と、
モハベ砂漠で出会った“昔の友達”。 

text by

井手裕介

井手裕介Yusuke Ide

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photograph byYusuke Ide

posted2013/07/11 11:05

ハイカーたちの「天国」と、モハベ砂漠で出会った“昔の友達”。<Number Web> photograph by Yusuke Ide

ヒッピーの家で色々とやらかして有名人になった「シャシンカ」井手くん(右端)。

映画や漫画、鮨……日本のことをよく知る人々。

 僕は英語が流暢ではないけれど、忌野清志郎が歌うモンキーズのカバーを聞かせたり、ニューシネマの話をしていると(話をするというより、単語を発する程度なのだが)すごく受けがよかった。

 逆に彼らが日本のサブカルチャーに詳しいのも興味深かった。コメディアンの松本人志が監督した映画『大日本人』が『Big man Japan』としてウケていたし、『ジャンプ』に連載されている漫画については本当に多くのアメリカ人に知られていた。

 日本食の話になれば『二郎は鮨の夢を見る』というドキュメンタリー映画が素晴らしかったと言い、しまいには、庭で流れている音響からピチカート・ファイヴが流れてきた。

 なんだ、これは。どこだ、ここは。

 でも、やはり自分の国のことを知ってくれているというのは嬉しい。きっとお互いにそうなのだろう。

 ハイカーたちとヒッピーたちが混じり合うこの場所は、さながらコミューンのようだった。

 最高にヒップな時間を過ごし、今度は違った種類の力をもらい、再びトレイルへ。今度こそ、出発だ。

ヘッドライトの集団がトレイルを歩いて行く光景は美しかった。

 心地よい山を越えて行くと、前方が開けてきた。遠くから見ると、まさに砂漠。平坦な地形が、はるか彼方まで続いている。

 なるほど地図を見れば、それまで騒がしかった等高線が姿を消している。

 砂漠へ向かうハイカーたちは暑さを避けるため、ヘッドライトを付けながらナイトハイクをするという。

 僕はというと、砂漠の暑さも景色も全身で受けとめたいと考えていたし、何より夜はしっかりと寝たかったので彼らの誘いを断り、いつも通りキャンプをすることにした。

 ヘッドライトの集団がトレイルを歩いて行く光景は、美しかった。

【次ページ】 海岸のような砂地が体力を奪っていくモハベ砂漠。

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