ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
ハイカーたちの「天国」と、
モハベ砂漠で出会った“昔の友達”。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byYusuke Ide
posted2013/07/11 11:05
ヒッピーの家で色々とやらかして有名人になった「シャシンカ」井手くん(右端)。
エンジェルはなぜほぼ無償でもてなしてくれるのか。
会計を済ますと、Hummingbirdはピザハウスへ行こうと言う。今まさにステーキを詰め込んだじゃないかと笑うと、「違う違う。店の大型スクリーンでアイスホッケーの試合が見たいんだ」と熱っぽく語る。
なんでも、彼は出身地のホームチームDetroit Red Wingsに所属しているPavel Datsyuk選手が大好きなのだとか。後から来たカナダ出身のRUM MONKEYも、お腹いっぱいの僕にラージサイズのミルクシェーキを奢ってくれつつ試合に熱狂している。カナダでもアイスホッケーは熱いようだ。
「氷上の格闘技」とは言い得て妙だなと思う。彼らも試合後にイブプロフェンを呑むのだろうか。
アメリカのスポーツを堪能し、Saufleysの家へ帰る。家はピザハウスから遠いが、彼らが貸してくれた自転車で暮れる夕日を見ながら風をきって漕いで行く。
歩くスピードとは違った気持ちよさだ。
この家にはハイカーの足として、自転車が30台ほど常備してある。全く、かゆいところに手が届くもてなしだ。
なんのためにここまでよくしてくれるんだろう。
ほぼ無償で僕たちハイカーをもてなしてくれるエンジェルが不思議でならない。いろいろと想像してみたが、正直僕にはまだ彼らの気持ちがわからなかった。
パーティ続きの2晩を過ごし、不思議な充実感を胸にトレイルへ。
Agua DulceをPCTが貫いており、周辺にはSaufleysの家以外に泊まる所がないので、この“選手村”には本当に多くのハイカーが集まっていた。
顔見知りのハイカーたちは「シャシンカ、写真を撮ってくれよ」と僕をからかう。夜は焚き火を囲んでの宴会。ここでは2晩を過ごしたが、そんなパーティナイトが続いたこともあり、あまりよく眠れなかった。
それでも、外国人の僕にわざわざ絡んでくれるのが嬉しく、可能な限り、誘いは断らないようにした。おかげで目の充血は治らなかったが、不思議な充実感を胸にトレイルへ発つことができた。