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ハイカーたちの「天国」と、
モハベ砂漠で出会った“昔の友達”。 

text by

井手裕介

井手裕介Yusuke Ide

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photograph byYusuke Ide

posted2013/07/11 11:05

ハイカーたちの「天国」と、モハベ砂漠で出会った“昔の友達”。<Number Web> photograph by Yusuke Ide

ヒッピーの家で色々とやらかして有名人になった「シャシンカ」井手くん(右端)。

海岸のような砂地が体力を奪っていくモハベ砂漠。

 モハベ砂漠は、アフリカのそれと異なり、何もない砂地ではなく、どちらかと言えば荒野であった。

 ジョシュアツリーと呼ばれる植物やサボテンが太陽の光を浴びて輝いている。足を前に運ぼうとするものの、海岸のような砂地は体力を奪っていく。

 ところどころにトレーラーハウスの集落が見えるものの、恐らく人は住んでいないだろう。小さな小さなゴーストタウンのようだ。

 歩いている途中、1台のジープが通り過ぎる。彼らは大きなバックパックを背負った僕に「水は足りているか。もし足りなければ分けてやるぞ」と声をかけてくれた。

 僕が丁寧に断ると、彼らは「good luck」と親指を立てた後、砂嵐を巻き起こして一瞬で消えてしまった。

僕を前に進めてくれるエネルギーの多くは、精神的なもの。

 この区間は、皆が夜に歩いているせいか、本当に1人ぼっちだった。

 1人で延々と道を行くと、いろんな思い出が蘇ってくる。

 小学校の頃に好きだった女の子の今を思ってみたり、中学校の恩師の言葉の意味が今になって分かってきたり、あるいは高校の頃の自分のトンガリっぷりを思いだして恥ずかしくなってしまったり。

 なんだか、思い出をエネルギーにして燃やしながら進んでいる気分になってくるのだ。

 斉藤和義の歌ではないが、今歩いているこの道も、きっといつか懐かしくなるんだろうなあと思う。

 僕を前に進めてくれるエネルギーの多くは、精神的なものだ。

 歩き始めて1カ月ほど経つが、身体が極端にアスリートになってきたかと言えば、当然そんなことはない。

 相変わらず、大きなバックパックに不釣合いな貧相な体格。変わったのは、メキシコ人かと間違われるほど真っ黒に焼けた皮膚と、鼻の下のちょび髭。そして、伸びてきた髪の毛くらいだろう。

【次ページ】 東京に、目を閉じて歩ける道なんかあっただろうか。

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