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ハイカーたちの「天国」と、
モハベ砂漠で出会った“昔の友達”。 

text by

井手裕介

井手裕介Yusuke Ide

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photograph byYusuke Ide

posted2013/07/11 11:05

ハイカーたちの「天国」と、モハベ砂漠で出会った“昔の友達”。<Number Web> photograph by Yusuke Ide

ヒッピーの家で色々とやらかして有名人になった「シャシンカ」井手くん(右端)。

「25マイルかあ。毎日歩いている距離だなあ」

 送ってくれたエンジェルからは集合時間は1時間後と言われていたが、彼に頼み、特別に後で迎えに来てもらえることになった。

 約束の時間になり、友人のプリペイド携帯からエンジェルに電話をかける。聞き取りにくい英語を2人で協力しつつ理解すると、交通事故による渋滞が深刻で今日は迎えに行けないと言う。

 これは参った。でも、彼女がいる手前、僕は格好つけて余裕を見せる。

「Googleマップによれば25マイルかあ。毎日歩いている距離だなあ。最悪、歩いて帰れるよ」

 そんな気は毛頭ないのだけれど。

 結局、図々しくも何度も片言の電話をかけ、迎えに来てもらうことができた。

 彼女との別れを惜しみつつ、また前に進む力をもらうことができた。わざわざインターンシップをサボって来てくれたらしく、感謝の言葉が見つからない。

晩ご飯は「All You Can Eat」のお店でステーキを。

 フリーウェイを行く帰りの車中、気まずい沈黙を破るべく、エンジェルにいろいろと話しかけたが、彼はそんな僕に「気を遣わなくていい」と言いたげに寡黙だった。

 英語の標識を次々と経過していく車中。やはり僕にとって歩くスピードの方が、多くのものを吸収出来るみたいだ。

 Hiker's heavenに戻り、送迎をしてくれたエンジェルにドネーションを渡そうとすると「Saufleys夫妻に」と制された。

 その日の晩は、これまで何度もトレイルで出会っているHummingbirdと「All You Can Eat 」という、いわゆる食べ放題のお店でステーキを腹に詰め込んだ。

 店を去ろうとすると、大柄な女性ハイカーPeterpanが「イブプロフェンを持っているか」と泣きべそをかきながらやって来た。僕は持っていたバファリンを渡す。彼女は僕たちの水でそれを流し込み、Hiker's heaven へと向かった。

 相方のCookie monsterはどうしたのだろう。バックパック姿のまま店を去る彼女の背中が夕日に焼きつく。

【次ページ】 エンジェルはなぜほぼ無償でもてなしてくれるのか。

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