ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
ハイカーたちの「天国」と、
モハベ砂漠で出会った“昔の友達”。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byYusuke Ide
posted2013/07/11 11:05
ヒッピーの家で色々とやらかして有名人になった「シャシンカ」井手くん(右端)。
東京に、目を閉じて歩ける道なんかあっただろうか。
そんなことを考えながら歩いて行くと、前方に風車が見えてきた。
僕は少しナーバスになる。遠くから見ると牧歌的で自然に溶け込んで見えるあの人工物も、近くでは風が台風並みに強いことを知っていたからだ。
前回の比ではない風車の数。止むことのない風。僕は思わず、目を閉じて歩く。砂が目に入り、目が痛いのだ。
そんな風に歩を進めていくと、僕は気づいた。
これまで東京で過ごしてきて、目を閉じて歩ける道なんかあっただろうか。
わかりきったことだが、人や物、情報が多すぎるのかもしれない。目を閉じ、風の音を聞きながら、この瞬間がすごく贅沢な時間なのだと再認識した。
その日、山の鞍部に降りてキャンプをしたが、風はまだ強く、テントが張れずに寝袋だけのカウボーイキャンプをした。
一緒に泊まったFansizeがお決まりのように「How was your hike?」と聞いてくるので、僕はディランの「風に吹かれて」を口ずさんだ。
ちょっと気の利いた返しが出来て満足気に寝袋にくるまった。風の音と、飛んでくる砂で熟睡は出来なかった。
聞き取りにくい英語で語尾に「you know?」と付けるハイカー。
翌日も風に目を細めつつ歩き、やっとのことハイウェイへ。多くのハイカーはTehachapiという町へヒッチハイクをするが、僕は予め補給物資を送っていたため、彼らとは逆側の町Mojaveへと向かう。
しかし、日頃の行いが悪いのだろうか。そちらへ向かう車はほとんど通らない。
居合わせた映画監督のハイカー、Gaiterと顔を見合わせる。参ったなあ。
彼は携帯電話を持っており、電波が入るみたいだ。「タクシーを呼ばないか」という言葉が喉の奥まで出かかってくる。
風が強い。上着を着込み、サングラスは外せない。
彼が携帯をいじるので勇気を出してタクシーを提案してみると、「1人20ドルもかかる。それにまだトライし始めてすぐじゃないか」と返してくる。
道路に立ち始めて40分は経っている。お腹も減ってきた。通過した車は3台ほど。1時間ほど経つと、彼は諦めたのかイエローキャブを呼ぼうかと僕に言ってきた。
何故か車1台でいくらはなく、人数分お金がかかる。足下を見ているのか、アメリカのタクシー制度がそういうものなのか。
彼は「Fuck'in なんちゃら」とぶつぶつ言うが、彼の英語はとにかく聞き取りにくい。語尾に「you know?」といつも付けるのだが、こちらとしては「いや、知りません」と返したい気分だ。
とはいえ、彼の携帯電話がなければ町には降りられなかっただろう。