ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
ハイカーたちの「天国」と、
モハベ砂漠で出会った“昔の友達”。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byYusuke Ide
posted2013/07/11 11:05
ヒッピーの家で色々とやらかして有名人になった「シャシンカ」井手くん(右端)。
ヒッピーとして有名なエンジェルの家に立ち寄る。
ここから次の町への区間はモハベ砂漠が広がっており、PCTの中で最も苛酷なセクションだという。心して向かうも、初日の夜から大きな寄り道をしてしまった。
途中、トレイルと交差する道路を少し歩くと、ヒッピーとして有名なエンジェルの家に寄ることが出来る。
周りのハイカーは「騒がしいから」「野蛮だから」「眠れないぜ」と敬遠し通過して行ったが、僕は睡眠欲以上に好奇心が勝ってしまったのだ。
寄ってしまったどころか、あまりに居心地がよかったので3日間も居座ってしまった。すぐにトレイルに出たところで、次の町に着くのは日曜日になってしまうし、翌月曜日はメモリアルデーという祝日の為、郵便局が開いていないのだ。
健全なスポーツジャーナリズム誌である「Sports Graphic Number」のウェブページに、ここで起きたすべてを書くことは憚られるものの、起こした大失態のおかげで、僕は周りのハイカーたちから有名になってしまった。
「ヤレヤレ!」と歓声を送る男たち、「アラアラ!」と心配する女たち。
ピーター・マックスみたいなサイケデリックアートを描いてみたり、インドの不思議な楽器を演奏したり、噛みタバコを口にいれながらCribbageというポーカーを愉しんだり。
皆が痛み止めとして気軽に服用しているという、スペシャルタバコまで拝借した。州法と憲法はどちらが強いのか、とポリティカルな話題を口にしつつ、来るもの拒まずの精神でトライする。
喫煙習慣がないためか、うまく肺まで吸い込めない。なにか感じるかと聞かれても、正直になにも感じないと答えた。
ボスみたいな人物が、自分が吐く息を吸い込めというので、言葉に甘えて試してみたが、やはりうまくいかなかった。
「初回はよくあることさ」と彼らは言う。なんだか悔しかった僕は、家主のAnderson氏が作ってくれたスペシャルブラウニーとやらをまるごと一切れ食べた。口元に近づけた瞬間、「これはなるほど」と匂ったが、何かに近づきたくて僕はゆっくりと咀嚼した。
それを見て「ヤレヤレ!」と歓声を送る男たち。そして、悲鳴にも似た声で「アラアラ!」と心配する女たち。