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「トップ8」の壁が日本を苦しめる――。
メキシコの“レジェンド”の不吉な予言。 

text by

近藤篤

近藤篤Atsushi Kondo

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photograph byAtsushi Kondo

posted2013/06/26 11:45

「トップ8」の壁が日本を苦しめる――。メキシコの“レジェンド”の不吉な予言。<Number Web> photograph by Atsushi Kondo

1930年の第1回サッカーW杯から参加しているメキシコ代表。1970年と1986年のW杯自国開催ではベスト8まで進むが、過去5大会では連続でベスト16敗退となっている。

カメラ片手に世界中を巡るフォトジャーナリストの近藤篤氏。
今回は氏の最新刊となる『ボールピープル』の発売を記念して、
コンフェデレーションズ杯の紀行エッセイを発表することとなりました。

今回は、日本代表最後の試合となったメキシコ戦にまつわるお話。
消化試合なのに5万人以上の観客が詰めかけたスタジアムで、
日本贔屓のブラジル人達の大歓声に日本代表は応えられたのか?

 イタリア戦の2日後、レシーフェからブラジリア経由で第3戦の舞台ベロオリゾンチに飛んだ。

 途中、ブラジリアからメキシコ人の団体客が同じ便に大勢乗ってきた。彼らは前々日、フォルタレーザで行われた対ブラジル戦を観戦し、同じくベロオリゾンチに向かうところだった。中にものすごい美人が1人いたが、残念ながら彼女は僕の座席の斜め前に座り、僕の隣には72歳の年金生活者で、もうかれこれ30年ほどメキシコ代表を追っかけて様々な国を旅しているというファンマヌエルさんが座った。

 僕は、それにしても1次リーグ敗退は残念でしたね、とまるで他人事のようなセリフを口にする。

「まあこういうのもサッカーですよ、サッカーにはいいことよりも悪いことの方が多いんだ」

 妙に達観した返事が返ってきた。

 彼の応援するメキシコは、北中米地域では抜群の強さを誇るサッカー強国である。W杯では過去にベスト8も二度経験しているし、若手の育成も順調だ。昨年のロンドン五輪での金メダルも記憶に新しい。しかし一方で、W杯ではここ5大会連続でベスト16どまりの成績しか残せていない。さあいよいよ、という試合で期待虚しく負けることが多い、言ってみれば大国になりきれない強国なのである。

日本代表の記者会見。いつもの質問と答えが、繰り返される。

 ブラジリアからの飛行機は、1時間のフライトでベロオリゾンチのタンクレード国際空港に着いた。

  

 ベロオリゾンチ。

“美しい地平線”。

 僕はこの街の名前を聞くたび、世界で一番美しい街の名前かも、と思う。

 ファンマヌエルさんと幸運を祈り合い、ターンテーブルから荷物をピックアップして、空港から市内までのタクシーに乗る。ブラジルの空港タクシーには2種類、いわゆる空港前で列を作って待っている流しのタクシーと、料金前払い制のタクシー(まあハイヤーみたいなものだ)がある。流しのタクシーのほうが料金は安いが、僕の経験から言うと3回に1回はまずボラれる(僕が逆の立場でもそうするだろうし)。なので、前払い制のタクシーを選択した。空港から市内まではおよそ50キロ、料金は109レアル。日本円にすると5000円弱。成田から新木場あたりまでタクシーに乗るよりは安いが、以前のブラジルではとても考えられない値段である。

  

 空港からホテルへ向かうつもりで料金を前払いしたが、そういえばたしか両チームの試合前日の公式練習があることを思い出し、途中ミネイロンスタジアムの前でスーツケースごと降りる。スタジアムではちょうどザッケローニ監督の記者会見が始まったところだった。

 会見の内容は相変わらずだ。記者のほとんどは当たり障りのない質問をし、監督も当たり障りのない答えを返す。日本メディアの質問には、観念論的なものが多い。この日になされた質問ではないが、初戦のブラジル戦前日の記者会見で、この大会が終ったとき選手には何を感じていてほしいですか? と訊いた記者がいた。

 おいおい、あんた何が訊きたいんだ?

【次ページ】 代表監督がメディアと戦っていたメキシコの記者会見。

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