ボールピープルBACK NUMBER
「トップ8」の壁が日本を苦しめる――。
メキシコの“レジェンド”の不吉な予言。
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph byAtsushi Kondo
posted2013/06/26 11:45
1930年の第1回サッカーW杯から参加しているメキシコ代表。1970年と1986年のW杯自国開催ではベスト8まで進むが、過去5大会では連続でベスト16敗退となっている。
最初は観客も日本を応援していたが……。
キックオフ40分前には両チームがウォーミングアップのためにピッチ上に姿を現す。メキシコにはブーイング、日本には歓声と拍手。どうやらミネイロンでも観衆は日本びいきのようである。
午後4時、とても消化試合とは思えないような騒然とした雰囲気の中でキックオフの笛が鳴る。
日本代表はイタリア戦のスターティングメンバーから3人を入れ替えた。内田を外して酒井宏樹、累積警告で出られない長谷部に代わって細貝、吉田に代えて栗原。
一方のメキシコもこれまでの2戦から先発メンバーを6人入れ替えてきた。若手に経験を積ませたいという意図もあるが、同時に9月に控えたW杯予選の対ホンジュラス戦(ホンジュラスは予選で4位につけている)に向け、もしここでもう1枚イエローカードをもらってしまうと、その試合に出られなくなる選手も外しているのだ。
ブラジル人観客の大声援に応えられなかった日本代表。
ゲームは立ち上がりからしばらくは日本が押し込んだ。前半5分には香川がドリブルで持ち込んで惜しいシュートを放ち、10分には遠藤の放ったミドルシュートを岡崎がヒールでコースを変えゴールが決まったかに思えたが、オフサイドの判定が下る。
しかし15分が過ぎたあたりで、試合のバランスは拮抗し始めた。メキシコは早々に日本のスタイルに慣れてしまったようだった。
スタンドからは、ジャーポン、ジャーポンのコールが何度も起こるが、日本はその声援に応えるほどのプレーを見せられない。
メヒコ! メヒコ! 数の上では圧倒的劣勢のメキシコ人サポーターが四面楚歌の中で必死に声を上げ、その声に応じるかのように、メキシコは次第にゲームの主導権を握り始める。
そして後半9分、スコアを動かしたのは、マンチェスター・ユナイテッドにおける香川の同僚でもあるメキシコのエース、“チチャリート”エルナンデスだった。左サイドからのアーリークロスを見事なヘディングでゴールに叩き込み、ここからゲームは完全にメキシコペースとなる。そして12分後、再びエルナンデスがヘディングで2点目を決める。
ちょっとショックだったのは、スタンドからはジャーポン、ジャーポンの声援が次第に聞こえなくなり、メキシコのパス回しに「オーレ、オーレ」の歓声が起こり始めたことだ。日本は完全に機能不全に陥り、個で仕掛けてもダメ、パスを回してもダメだった。イタリア戦の日本代表はこの日のピッチの上にはどこにも見当たらなかった。
後半41分、日本はなんとか1点を返したが、ピッチサイドにはそこからゲームが動く予感はまるでなかった。ロスタイムは5分。メキシコがPKを得て川島がファインセーブを見せ、そこで試合は終了した。スタンドからは最後にもう一度、ジャーポン、ジャーポンのコールが上がったが、その声は虚しくベロオリゾンチの夜空に響くだけだった。