Survive PLUS ~頂点への道~BACK NUMBER
「出会い」を力に変える男・吉田麻也。
成長続けたプレミア1年目を振り返る。
text by
西川結城Yuki Nishikawa
photograph byTomoki Momozono
posted2013/06/14 10:30
吉田は、リーグ戦最終盤の3試合は欠場したものの、31試合連続フル出場を果たすなど、監督の交代にも全く影響されずDFの中心としてプレミア残留に貢献した。
チームに動揺をもたらした、アドキンス監督の電撃解任。
2013年1月、サウサンプトンはアドキンス監督を電撃解任した。後任には、スペインのエスパニョールで指揮をとった経験のある、元アルゼンチン代表DFのポチェッティーノ氏(当時39歳)を招聘する。
アドキンス前監督は低迷していたサウサンプトンを2010-'11シーズン途中から指揮。チームをリーグ1(イングランド3部リーグに相当)からチャンピオンシップ(同2部リーグ)に昇格させると、続く1年でプレミアリーグへと導いた。内外からの信頼も厚く、吉田もクラブ加入当初から「とにかく前向きなことしか言わない。常に選手たちに自信を与えてくれますね」と、その人間性に惹かれていた。
だが、チームは2012-'13シーズンのリーグ開幕以降、なかなか結果が出ない日々が続いた。年末、年明けには少し状況を立て直したが、スタートの出遅れが、結果的に指揮官交代の大きな引き金となった。
少なからず、チーム内にも動揺はあったという。突然の解任劇と、新体制の不透明さ。シーズン真っ只中、しかも連戦の最中とあって、方向性を一気に見失う可能性も当然あった。
監督の指示や戦術を深く理解できない選手がいる中で……。
新指揮官の下での戦いが始まった。選手たちは日々の試合をどう戦っていくかと同時に、新たに始まるであろうポジション争いにも意識を注いでいた。いったい、どんなメンバーが起用されるのか。チームに加入してまだ半年足らずの吉田も、気が気ではなかった。
ポチェッティーノ監督は、アドキンス前監督よりも戦術的な指示が多かった。特に守備面では、元CBという肩書きに相応しく、チーム全体に明確なディフェンス意識を植え付けようとした。
イングランドでプレーする選手は、上位の数クラブに所属する選手たちを除くと、未だに体格や身体能力を生かしたプレーだけを得意とする選手も多い。すなわち、緻密な戦術内における動き方や、味方との連係面などで、遅れを取る選手がいるということだ。ヨーロッパの舞台は、基本“1対1”の文化である。個での戦いがあった上で、戦術やルールが存在する。この原理に則って戦うチームは、意外なほどたくさん存在するのだ。
新たな青年監督が練習の前後で開くミーティングで、サウサンプトンの選手の中には、当初は監督が話す戦術の内容や指示を深く理解できない選手もいたという。そうした光景を眺めながら、吉田はこう思った。
「僕はそういう戦術的な動きは慣れている。それが選手間の競争で有利に働くかもしれない」