MLB東奔西走BACK NUMBER
メジャーで躍動する永遠の野球小僧。
天衣無縫な川崎宗則、本当の価値。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGetty Images
posted2013/06/08 08:01
5月26日のオリオールズ戦で逆転のヒットを放ち、ファンの声援に応える川崎宗則選手。ここまで(6月5日現在)の成績は打率.214と無安打が続き低迷している。正遊撃手のレイエス選手の復帰も迫り、正念場に立たされている。
噛めば噛むほど味が出る、スルメイカのような存在。
もちろんメジャーを代表するレイエスの代役を100%務めるのは不可能といっていい。
実際打順は1番を担うレイエスとは違い、8番や9番に入っているし、相手先発投手が左腕の場合は先発から外れるという起用が続いている。しかも、6月5日現在の成績は、打率.214で本塁打はなく14打点。この状況を傍から見る人々がギボンズ監督の言葉を真に受けるのは難しいだろう。だがもう一度指揮官の言葉に耳を傾けて欲しい。
「カワサキを初めて見た時から、彼が自分の役目を確実に遂行できる基本を叩き込まれた選手だということがわかった。打撃面では走者を進めるためバントなど細かいことができるし、どの打席でも粘って投手に球数を投げさせ四球につなげるし、たとえ安打が出なくても無駄にすることがない。そして出塁すればスピードも備えている。守備でもポジショニングが正確で、確実に併殺を奪うし中継プレーでも確実に送球をしている」
ギボンズ監督の言葉を裏付けるように、打率こそ低いが、四球を含めた出塁率では40試合以上出場する主力クラスではチーム4位の3割3分1厘で、盗塁数もチーム2位の7を記録するなど、下位打線から出塁し上位打線のバットで得点につなげるという攻撃パターンを生み出している。
さらにバッティングの粘り強さや守備上のポジショニングの的確さなどは、成績上に現れることがない普段の彼のプレーぶりを見ていなければわからない部分だといえよう。
だからこそ、昨年在籍したマリナーズの成績しか知らないブルージェイズ首脳陣は、成績では推し量れないそのプレーに満足している。
川崎のプレーは見れば見るほどに、彼本来の価値を見出す──まさに噛めば噛むほど味わいが増してくるスルメイカのような選手なのだ。
プレーだけでなく、野球を巡るあらゆる場面で川崎は愛されている。
川崎の深みはプレーだけではない。日常にも隠されている。
彼はメジャーに昇格以来、とにかくチーム内に前向きなムードをもたらしている。先発出場の有無にかかわらず毎日一番最初にグラウンドに姿を現し、体幹トレーニング、スローイング、バッティング等々の個人練習をひたむきにこなす。
その合間に参加義務はないにもかかわらず中継ぎ投手のランニング練習に加わり投手たちと盛り上がる姿。英語が上手く喋れなくても日本語を交えながら積極的に声をかけ、選手たちを笑わせる姿。すべての行為がチームメイト達全員に好意的なものとして受け入れられている。
だからこそ前述のヒーローインタビューの際に、他の選手達からシェービングクリームとスポーツドリンクを浴びせかけられる“儀式”が行なわれたのだ。