セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
笑った者と泣いた者の明暗くっきり。
“婚活”のようなセリエ監督交代劇。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2013/06/05 10:31
ナポリを強豪へと復活させたマッツァーリ監督。来季からは“新居”のインテルで指揮をふるう。
ナポリもベニテスも“インテル憎し”で共闘できる!?
「結婚生活は相手あってのものだが、他の男と恋に落ちた妻が、彼とベッドをともにするのを止める術はない。カネでつなぎ止めておける嫁ばかりとは限らんのだ」
マッツァーリ慰留に失敗したナポリのデラウレンティス会長はこう言って悔しがったが、彼の“婚活”の次の一手は早かった。
セリエAの今季日程が終了した翌日の5月20日、プライベートジェットでロンドンへ飛ぶと、チェルシーでELを制したばかりのベニテスと昼食のテーブルを囲んだ。その席でスペイン人監督を口説き落とし、1週間後にはEL優勝監督に「1年目からタイトルを狙いましょう」と言わせていた。
ベニテスとイタリアのクラブとの最初の結婚生活は、苦い結果に終わった。2010年夏からの半年、3冠達成後のインテルを率いたベニテスは、イタリア・スーパー杯とクラブW杯という2つのビッグタイトルをもたらした。しかし、クラブW杯優勝直後に補強を訴えたことが上層部批判と捉えられ、クリスマス直前で解任された。
その後、約2年の浪人生活を強いられたが現場復帰したチェルシーで見事EL優勝を勝ち獲った。内外の批判に耐えながら、国際舞台での腕が鈍っていないことを満天下に示した。2季ぶりにCLに挑むナポリにとって、欧州カップ戦の経験豊かなベニテスはうってつけの存在だ。
FWジェコ(マンチェスター・C)やFWトーレス(チェルシー)など獲得候補にも威勢のいい名前が飛び交うナポリは、スペイン流の4-2-3-1へ変貌する。新機軸で挑むタイトル争いに加えて、古巣インテルへのリベンジがベニテスの大きなモチベーションだ。ナポリにとっても、横恋慕で前指揮官を奪ったインテルに一泡ふかせたいところだ。
“悪態をつく亭主に耐え忍ぶ良妻”のベルルスコーニとアッレグリ。
憎愛渦巻くセリエAで、監督とオーナーの“結婚生活”が相思相愛で穏便なケースばかりのはずがない。
苦難の3年目を3位で終えたミランのアッレグリなどは、差し詰め“悪態をつく亭主に耐え忍ぶ良妻”といえる。主力がゴッソリ抜けた若手ばかりのチームを率いて、CLプレーオフ権を獲得できたのは「望みうる限り最高の成績」(ガッリアーニ副会長)だった。
だが、メディア受けする優勝争いにないミランに、ワンマンオーナーの権化たるベルルスコーニ元首相の現場介入は止まず。
シーズン中の遊説先で「アッレグリはサッカーのことなどクソほどもわかっておらん」と得意気にのたまったかと思えば、終盤にはもはやお払い箱と言わんばかりに「来季アッレグリが指揮をとるのはローマだ」と辺りを憚ることなく、指揮官に対する“口撃”がエスカレートした。