ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
5月の雪と初めてのヒッチハイク……。
「まさか」の連続と出会っていく。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byYusuke Ide
posted2013/05/29 17:00
5月のカリフォルニアで「まさか」の雪に見舞われた!
耳をつんざくようなクラクション、駆けつける救急車。
2、3台車が通過した頃だろうか、信じられない出来事が起きた。
目の前でクラッシュが起きたのだ。玉突きで3台を巻き込む大事故。
耳をつんざくようなクラクションは、車が止まった後も鳴り止まない。すぐに先ほどの喫茶店から、スタッフやハイカーが飛び出してくる。
「ジーザス・クライスト!」
そう叫ぶ人を見て、本当にそんな言葉があるのかと不思議に思った。
僕が立てた親指が何か影響を与えてしまったような気がした。大きなザックを背負った僕は、動くことが出来なかった。かろうじて、カメラのシャッターを人差し指で切った。
大人たちが大声で、がなり立てる。救急車、消防車、パトカー、そしてヘリコプターが駆けつける現場。「何かしなければ」という思いを抱きつつ現場を見つめるものの、何もすることは出来なかった。
もしも英語が流暢に喋れたら、僕は何か出来ただろうか。実際、やはり何も出来ず、トレッキングポールで体を支えるのがやっとだったかもしれない。
「もしも、僕がここに立たなかったら」
出発前に多くの人が僕の無事を心配してくれた。「トレイルの踏破なんかどうでもいいから、無事に帰ってこい」と。
目の前でヘリコプターに運ばれて行く若いカップル。その日は土曜日、めかしこんでドライブに出かけた矢先だったのだろう。
「自分はここで何をやっているんだろう」
「どうして彼らがこんな重傷を負っているのか」
「もしも僕がもっとカフェでゆっくりしていたら。もしも、僕がここに立たなかったら」
そんなことを考えていると、涙が止まらなかった。頬をTシャツで拭うと、黒く汚れた。
警察への事情聴取の後、近くに居合わせた老夫婦が目的地のIdyllwild(アイダイルワイルド)という小さな観光地に送ってくれた。
土曜日なので、あらかじめ送っておいた補給物資を午前中のうちに郵便局に取りに行かなければならなかったのだが、この時、車の中でいやに冷静に自分のやるべきことを整理していた。そんな自分に嫌気がさした。