ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER

5月の雪と初めてのヒッチハイク……。
「まさか」の連続と出会っていく。 

text by

井手裕介

井手裕介Yusuke Ide

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photograph byYusuke Ide

posted2013/05/29 17:00

5月の雪と初めてのヒッチハイク……。「まさか」の連続と出会っていく。<Number Web> photograph by Yusuke Ide

5月のカリフォルニアで「まさか」の雪に見舞われた!

ベーコン揚げ朝飯を作ってくれたTomが再び現れる。

 翌朝、ドギーバッグしたピザとロッジ備え付けのコーヒーで朝食を済まし、郵便局に向かうと、そこはすでに雨具を着たハイカー達でごった返していた。彼らの多くは午後からの好天を信じ、ホテルをチェックアウトしたという。

 僕もロッジへ戻り、今日進みたい旨を2人に伝える。消極的なTOYOさんと、乗り気なGOKUさん。暫く携帯画面を見ながら3人で唸っていたが、外に太陽が射してきたのを見て、TOYOさんが急に乗り気になった。

 僕とGOKUさんは顔を見合わせる。

「やれやれ」

 ロッジをチェックアウトした矢先、1週間ほど前にベーコン揚げ朝飯を作ってくれたTomがトラックに乗って僕たちの前に現れた。

「どうしてここに?」

 どうやら、ハイカーが立ち寄る地点を巡回して手助けしているようだ。そもそも、朝食をご馳走になったあの家も、彼の家ではないと言う。エンジェルの生態は不思議だ。

 彼はトレイルヘッドまで僕たちを送ってくれるという。まさに渡りに船。彼の愛犬とTOYOさんが助手席に、僕とGOKUさんは荷台に乗りこみ、トレイルヘッドへ向かう。標高があがり、頬を切る風も冷たくなる。

 10分ほどして、僕たちは高峰そびえる次のセクションを歩きはじめた。

サボテンの世界から一転、5月のカリフォルニアで雪に見舞われる。

 吐く息が白い。被ったフードを叩く雨粒は、いつしか雪になっている。

 スキー用グローブに包んだ指先は、この信じられない光景を前にしてシャッターを切るのに忙しい。

 ついこの間までサボテンとガラガラ蛇の世界だったのに、5月のカリフォルニアで雪に見舞われるなんて。しかし、先を行くハイカーの踏み跡のおかげで、雪化粧したトレイルを見失うことはなさそうだ。

 冷え性の僕は、出発前まで寒さに怯えていたが、実際に歩いている最中は気持ちよく、それまでとの環境の変化を愉しんでいた。

 休憩を取ると身体が冷えるので、ノンストップで進む。初日に一気に標高2000m後半の峠まで降り、テントを張った。

 谷から上がってくる強風をBGMに、ダウンを着込んでタイツを穿き、厳冬期用の寝袋に包まって熟睡した。

 起きると知らぬ顔のハイカーが隣にテントを張っていた。

「おはよう。今朝はいい天気だね」

 彼はスルーハイカーではなく、この高峰を狙いにきたセクションハイカーだった。この先、彼と再会することはないだろう。それでも、僕も彼もそんなことは関係なく、大いに話す。

 陽が昇り、暖かくなったので僕は彼と別れ、行進を再開。

【次ページ】 風力発電の風車が立ち並ぶ「風の谷」。

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