欧州CL通信BACK NUMBER
労を惜しまぬ守備とロッベンの雪辱弾。
悔しさを糧にしたバイエルン、CL制覇。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byGetty Images
posted2013/05/26 19:15
“ビッグイヤー”と呼ばれるチャンピオンズリーグトロフィーを突き上げる主将ラームとバイエルンの選手たち。この時、ピッチには彼らを見上げるドルトムントの選手たちの姿があった。
ドルトムントの攻撃を封じたマンジュキッチらのプレス。
それでも試合を優位に進めるバイエルンは、ボールを支配して、相手陣内に押し込んでいく。ドルトムントの守備陣がボールを奪っても、最前線のディフェンダーでもあるFWマンジュキッチがプレッシャーをかけると、他の選手も連動してパスカットを狙う。FW、MF、DFにそれぞれのセンターラインに守備的補強をしてきたバイエルンの面目躍如といったところだ。
思うように攻撃に移れないドルトムントのパス成功率は、わずか60%に終わった。また、後半は、カウンターで前線に飛び出していくことも減ったため走行距離も伸びず、普段は121キロを超える距離を走る彼らも、この日は116.5キロにとどまった。
対するバイエルンは、相手のDFラインの裏をロッベン、ミュラー、マンジュキッチと何度も狙っていくが、GKバイデンフェラーを中心としたドルトムントDF陣の集中力は高く、ゴールは遠い。バイエルンやや優勢ながらもこう着状態が続き、後半残りあと5分が過ぎる頃には、延長戦の気配が漂い始めていた。
ドルトムントのDFリーダーである、フンメルスもそんな気配を感じ取っていた一人だ。
「1-1のまま90分が経とうとしたときには、延長戦のことを考え始めていたよ」
状況を変えたのは、残り時間1分となった後半44分のことだった。
DFラインのボアテンクがロングパスを送る。前線で受けたリベリーが粘ると、ヒールパスをゴール方向へ。後方から猛然と走り込んできたロッベンが、フンメルス、スボティッチのセンターバック2人を一気にかわしてキーパーと一対一。冷静にバイデンフェラーの逆をついたボールはゴール右隅に転がって、ラインを超えた。試合最終盤での勝ち越しゴール。これで勝負は決まった。ドルトムントの息の根を止める一発だった。
ゴールの後、なぜロッベンは仁王立ちしたのか?
試合後、バイエルンのハインケス監督は、静かに、少しだけリラックスしてこんなエピソードを明かしている。
「この数週間にわたって、アリエン(ロッベン)は非常に集中して、練習に取り組んでいた。だから、昨日の練習の際に彼に伝えたんだ。『いいか、アリエン。君はいま、本当に良い状態にある。明日の試合では、大事な場面が君にまわってくるぞ』」
昨シーズン、リーグのドルトムント戦とチェルシーとのCL決勝、2つの大事な試合でPKを外し、無冠の原因を作ったと批判されたロッベンが、最後にゴールを決めたのだ。
「信じられないよ。いまの気持ちを表現することなんて出来ないよね。2010年のCL決勝戦、昨シーズンのCL、それから僕の場合は2010年のW杯でも決勝で敗れているんだ。でも、今日、ついに僕は優勝したんだ!」
ゴールを決めた直後、ロッベンは無邪気に喜ぶというよりも、あの黒目がちな目に不思議な光を浮かべたまま、力強く拳を握りしめていた。ゴール裏スタンドの前に仁王立ちになり、ファンの方をじっと見据えたのは、“戦犯”として批判されてきた過去があったからかもしれない。
マラガ戦など、奇跡を起こしてきたドルトムントにしても、ここから反撃をするチャンスは残っていなかった。
こうして、過去3シーズンで2度も決勝で敗れたバイエルンが、実に12年ぶりとなるCL優勝を果たしたのだ。