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“ホームラン・アーチスト”中田翔。
劇的に進化した新打法を検証する!
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byTamon Matsuzono
posted2010/08/10 12:00
「覚醒」と見るべきか。「進化」と捉えるべきか。
8月8日時点で4戦連発、11試合で8本塁打とアーチを量産する日本ハムの中田翔に対して、「覚醒」という言葉は的確なのか。いや、高校時代に当時の通算本塁打記録を塗り替え、昨年はファームの本塁打記録を更新していることから、すでに長距離打者の資質が備わっていることは周知の事実。“ホームラン・アーチスト”中田翔を語るのであれば、やはり「進化」が正しい表現になるだろう。
中田の大きな進化として、真っ先に打撃フォームが挙げられる。昨年から今年の開幕直後まではグリップを下げ、全身を使って力に任せたスイングをするイメージがあったが、7月に一軍復帰を果たしてからは、以前よりもグリップの位置を高くし、軸足となる右足に体重を乗せるという新たな形にたどり着いた。
その新打法は、中田にしかできない卓越した技術だった。
このフォームがもたらした効果は絶大だった。軸足に意識を集中することで、ボールを十分に引きつけられ、どんな球種にも幅広く対応できるようになった。それは、本塁打についての中田のコメントからも窺える。
「(3打席目は)変化球が2球続いたので、速いボールが来るという考えはあった」(7月27日、オリックス戦)
「(凡退だった2打席目までは)真っ直ぐを見せ球にして変化球で打ち取られていたので、変化球を待っていた」(8月4日、ソフトバンク戦)
「(3打席目は)打ち方は崩れていたけど、(下半身で)粘りながら打てたというのは大きい」(8月7日、楽天戦)
とはいえ、オリックス・T-岡田の「ノーステップ打法」が十分なパワーが備わっていないと効力を発揮しないのと同じように、中田の“新打法”も彼だからこそ成り立つものなのだ。
「中田のスイングスピードは、今のプロの打者のなかでも3本の指に入るくらい速い。もう少し、タイミングの取り方を覚えればホームランは増えていくと思う」
これは、シーズン開幕前に立浪和義氏が解説してくれたものだが、その「もう少し」が、今のフォームになって改善され、卓越したスイングスピードによって、多少、タイミングを外されてもボールをミートすることができるようになった。
田中将大との名勝負で出た凡打に見る成長の証とは?
今、中田の打撃への関心は本塁打に集まっているが、実は凡打にも進化が現れている。
例を挙げると、スポーツ新聞紙上で「平成の名勝負」と大きく取り上げられた、8月8日の楽天・田中将大との対戦。その2打席目がそうだった。
初球の高めに浮いたスライダーを強振したが、つまらされてファーストフライ。打ち上げた直後の中田の悔しがりようを見ても、明らかなミスショットだったであろう。
しかし、つまるまでボールをよく引きつけて見たことが、むしろ、中田が成長した証なのだ。
なぜ、打球がつまることが成長なのか?