リーガ・エスパニョーラの愉楽BACK NUMBER
モウリーニョはリーガで成功するか?
開幕前の言動から予測すると……。
text by
中嶋亨Toru Nakajima
photograph byGetty Images
posted2010/08/13 10:30
遠征先のアメリカで、練習敷地内をカートで移動するモウリーニョ
大きな注目を浴びながらレアル・マドリーの監督に就任したモウリーニョ。昨季のインテルでの大成功と、何かと過激な発言をすることで地元メディアからも絶大な期待をかけられている。すでに始まったプレシーズンマッチをレアルは2連勝でスタートし、ひとまずはその期待に応えている。
しかし、モウリーニョに課せられた使命は実に至難なものであることも確かである。
モウリーニョがレアル監督に迎えられる際、地元メディアは“勝利とスペクタクルの両立”について論じることが多かった。勿論、レアル上層部は、スペクタクルなどは二の次で勝利さえしてくれれば良いと考えているはずだ。今、勝利できなければ最も厳しい非難を浴びるのはペレス会長とバルダーノGMだからである。
会長とGMの公約は「リーガと欧州の制覇」だったが……。
バルサの圧倒的な進化と成功を見せつけられる中、満を持してレアル会長に返り咲いたペレスと、ゼネラルマネージャーのバルダーノは、ロナウド、カカーを中心に新銀河系を構築してリーガと欧州での覇権を取り戻すことを約束していた。しかし昨季の監督ペジェグリーニと選手本人の希望を無視して放出したロッベン、スナイデルらが移籍先で大活躍したのとは対照的に“彼らのレアル”はCLではベスト16であっさりと敗退し、リーガでもバルサの後塵を拝することとなった。ホーム開催だったCL決勝進出を逃したことも重なって、昨季開始前にはまるで英雄のように讃えられていたペレス会長はたった1シーズンで懐疑的な視線を受けるようになってしまったのであった。
そんな状況を招いたペレスとバルダーノは今や崖っぷちに立たされていると言っていい。
いくら良い内容のプレーをしてもタイトルを獲得できなければ、シーズンの途中であろうと間違いを犯したということで非難の嵐にさらされるのがレアルというクラブだ。そんな彼らが救われるにはタイトル獲得しかない。そのために彼らはモウリーニョを獲得したのだ。
己を貫くモウリーニョはショートカウンターにこだわる。
ペレスとバルダーノの命運を握るモウリーニョ。彼は合宿初日に「タイトルを幾つ獲得するかって? たくさんに決まっているだろ!」と力強く言い放っている。
だが、モウリーニョがリーガで勝つことは難しいかもしれない。ひとつには、バルセロナという圧倒的な障壁が彼の前には立ちはだかっているからだ。インテルを率いてバルサを退け、多くの人から大絶賛を受けたサッカーは、あくまでバルサとの直接対決でしか役に立たない戦法なのだ。レアル相手に守備を固めたチームに対しては、モウリーニョは攻撃を意識して試合をコントロールするサッカーを展開しなければならない。だが、モウリーニョがそういうサッカーをしたことは彼のキャリアでまだ一度もないのだ。
ポルト、チェルシー、インテルで彼に成功をもたらしたのはショートカウンターによる攻撃だ。そしてレアルでもそのサッカーを貫くことをモウリーニョはレアル監督就任直前のAS紙のインタビュー内で明かしている。
「中盤をコンパクトに保ち、ボールを奪ったらできるだけ速くゴールに向かう。このスタイルが私のサッカーだ」