野ボール横丁BACK NUMBER
智弁を破った成田の右腕・中川諒。
“唐川二世”は魔法で変身する!
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2010/08/09 12:45
三者三振。
おそらくは、智弁和歌山の監督、高嶋仁の頭の中には、そのときすでに嫌な予感が広がっていたのではなかろうか。
「外のスライダーは、打ちにいったときは消えてる、そんな感じだったんでしょうね。あんなボール球に手を出すいうことは……」
大会初日、第2試合に登場した智弁和歌山は、「唐川二世」の呼び声が高い成田のエース、中川諒に、1回表、いきなり1番、2番、4番と、3人の打者が三振を奪われた。
試合開始2時間前、高嶋は、ある意味、期待を込めるようにこうつぶやいていた。
「(千葉大会の)決勝は参考にならん。1安打しか打たれてないんやから。準決勝の方が荒れてた。あれが本来のピッチングじゃないかと思うんですけどね」
だが結果的に、その期待は外れた。
6安打中、クリーンヒットと呼べるのは、半分のわずか3本。しかも14個もの三振を喫し、1-2で智弁和歌山は敗れた。
完敗だった。中川は、「決勝戦の中川」だった。
唐川そっくりなフォームも「似てるのは最初だけです」。
千葉大会、中川は準決勝で優勝候補の筆頭だった習志野と対戦。その日の中川は高嶋が指摘するように逆球(捕手の構えと反対のボール)が目立つなど、4-3で完投勝利を挙げたものの、どこか危なっかしくもあった。
ところが翌日の決勝戦、東海大望洋とのゲームは、打って変わってコントロールもさえ、1安打シャットアウト。1-0というしびれるスコアで甲子園出場を決めた。
真っ直ぐのスピード、変化球のキレ、制球力と、高嶋がフロックだと勘ぐっても仕方のないほど、完璧な投球内容だった。
中川は、中田翔や佐藤由規と並んで高校ビッグ3と呼ばれた唐川侑己の3年後輩。フォームも似ていることから「唐川二世」とは言われるものの、レベル的には、まだ歴然とした差がある。
成田の部長、梁川啓介が話す。
「全体的に唐川の方が上でしたね。体も柔らかかったですし。背筋と握力は中川の方が上かな。それぐらいですよ」
監督の尾島治信も同意見だ。
「比べたことなんかないですよ。ぜんぜん違うから」
足を上げるまでの動作は、中川がDVDを何度も見て研究したと話す通り、唐川そっくり。ただ本人も「似てるのは最初だけですから」と笑うように、そこから先のフォームはまったく違う。
唐川がきれいなオーバーハンドだったのに対し、中川はスリークォーターとサイドハンドの中間のような、何とも表現しがたい腕の振りだ。