MLB東奔西走BACK NUMBER
追悼「神の声」&「The Boss」。
MLBで燦然と輝いてきた2つの巨星。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGetty Images
posted2010/07/25 08:00
2008年9月21日、旧ヤンキースタジアムでの最後の試合では、シェパード氏がビデオ形式で満員の観客に向けて球場への思いをつづった詩を朗読した
伊良部を「太ったヒキガエル」と貶した豪腕オーナー。
スタインブレナーといえば、その愛称通り豪腕オーナーとして知らぬものはいなかった。歯に衣着せぬ物言いはメディアを喜ばせ、物議を醸し出したことは枚挙にいとまがない。そんな彼を日本でも一躍有名にしたのが、伊良部秀輝という存在だった。
一大旋風を巻き起こした野茂英雄の登場で、ドジャースに「日本人」で先を越されたヤンキースは、日本人投手獲得に躍起になっていた。
'96年には前田勝宏の、そして翌年には“日本のノーラン・ライアン”と騒がれた伊良部の獲得に成功。だがいざ蓋を開けてみると期待とは程遠い投球が続いたこともあって、99年のオープン戦で一塁ベースカバーを怠った伊良部に対し“fat pussy toad(太ったヒキガエル)”と強烈な批判を浴びせ、日米でこの言葉が大々的に報じられた。これがきっかけとなって、日本でも強烈なキャラクターとして認識されたのではないだろうか。
功罪相半ばした勝利へのあくなき執念。
確かにオーナー在任中、'96年からジョー・トーリが長期政権を築くまで23年間で監督を20度交代させ、11人のGMを雇い入れている。
特にビリー・マーティンを監督として招聘したものの、5度も解雇したことは、スタインブレナーを語る上で有名な逸話になっている。だが、彼は単にわがままに振る舞っていたわけではなく、1つの信念を胸に突き進む上で意見の合わない監督、選手たちとぶつかってきたのだ。
“Winning is the most important thing in my life, after breathing.”
――私の人生で呼吸をすることの次に最も重要なのが勝つことだ。
スタインブレナーの有名な言葉が象徴しているように、彼の行動はすべてヤンキースが勝利するためだった。現在の年俸高騰化を招いた張本人として批判を浴びることもあるが、アディダスとチーム単独で独占契約を結んだり、ヤンキース戦を中継するためのTV局を立ち上げるなど、その独創的な錬金術は他のオーナーの追随を許さなかった。彼が存在しなければ、総工費16億ドルの新ヤンキー・スタジアムも実現できなかっただろう。