黄金世代、夢の行方BACK NUMBER
ブラジルの舞台でふたたび主役を!
稲本潤一が南アで得た“執着心”。
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byTakuya Sugiyama/JMPA
posted2010/07/18 08:00
練習も激しかったのでコンディションもキープできた。
大会中、選手が最も気を使うのがコンディションの維持である。試合に出ている選手は、試合、オフ、練習というサイクルが出来るので問題はないが、サブの選手は試合がない分、維持するのが難しい。しかも、今回は1500m級の高地での試合が多く、どんな状況になるのか未知数な部分もあった。カメルーン戦のしばらく後には、こんな発言もしている。
「練習がけっこうキツかったんで、良かった面もある。試合にあんま出てないけど、思った以上にコンディションはキープできたからね。ただ、さすがにホテルは途中で飽きた。ドイツの時は、自由に外に出れたけど、ここは出られへんしね。チームは……まぁカメルーン戦以降、いい感じにひとつになっているんでね。このムードを維持しつつ、最後のデンマーク戦の時どんだけ力を発揮できるかが大事やろね」
日本の国民性やメンタリティに守備的サッカーは合う。
そのデンマーク戦、日本は勢いの違いを見せつけ3-1で勝った。稲本も遠藤に代わって、後半ロスタイムから出場した。個人的に得られるものは何もなかったが、チームとして勝利を挙げ、決勝トーナメントに進出できたことは、大きな経験になった。
「それだけに最後、パラグアイ戦にPK戦で負けて終わったのはすごく悔しいし、淋しかった。すごくいい試合をしたし、0-0で120分を終えただけにね……。今回は、守備的な戦い方で結果を出せたけど、これを継続していくのはいいことやと思う。日本人の国民性とかメンタリティにも、この守備的なサッカーはすごく合っている。日本人は辛抱強いし、我慢強いからね。けど、今のレベルよりももうワンランク上げていくには、ここからが大事やと思うよ。守備の部分では、どんな相手にも守れる自信は出来たと思うけど、攻撃の部分では世界との差は個人としてもチームとしても、すごくある。そこを上げるためには海外での経験が重要でしょ。W杯のグループリーグのような試合を増やしていかないとダメ。それは、個人としてもチームとしてもね。個人? 個人的には……なんか悔しい思いをして終わった感じやね」
稲本は、そう言ってW杯を去った。
「個人的な悔しさは、ドイツ大会の時よりも大きい」
帰国後は、ゆっくり休み、W杯は決勝戦も含めほとんど見なかったという。7月9日にチームに合流し、コンディションを上げ、大宮戦に向けて調整してきた。同時に、チームメイトの川島永嗣と鄭大世の海外移籍が決まり、初めて見送る立場になった。
「海外に出ていく選手を見て、自分の気持ちもまた海外に向くんかなって思ったけど、そうでもなかった。まだ帰ってきて半年やし、やっぱり海外に出て新しい環境で言葉を学び、サッカーをしていくというのはすごいエネルギーがいるんですよ。そのパワーがまだ自分にはないね」
稲本は、そう言って苦笑した。