黄金世代、夢の行方BACK NUMBER
ブラジルの舞台でふたたび主役を!
稲本潤一が南アで得た“執着心”。
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byTakuya Sugiyama/JMPA
posted2010/07/18 08:00
「久しぶりの日本の夏は暑いね」
稲本潤一は、顔に大粒の汗をしたたらせながら、そう言った。
7月14日、W杯のために2カ月中断していたJリーグが再開した。稲本が所属する川崎は大宮と対戦したが、蒸し暑さの中、攻め手を見つけられず、あのパラグアイ戦のようにスコアレスドローに終わった。この冬、9年ぶりに帰国した稲本にとって、高温多湿の日本の夏は、想像以上に難敵のようだ。
「この時期は、欧州のクラブにいると涼しい場所でキャンプをやっていたからね。初夏に帰国していたことはあるけど、サッカーはしてへんかったし……。まぁ今日は暑いし、途中で足がつって交代したんで、これからこの暑さに順応することが大事やね」
稲本は、そう苦笑した。
対戦を強く望んだオランダ戦の出場機会は訪れなかった。
一方、世間では代表選手がこぞってテレビに出演し、W杯好景気を甘受している。パラグアイ戦から約2週間あまりが経過し、Jリーグも再開したが、まだまだ日本代表の熱は収まりそうにない。
「松井とか(大久保)嘉人とか、みんなテレビに出ている選手は、なかなかW杯から切り替えるの難しいと思うけど、自分はねぇ……そんなに難しくなかったよ」
表情は笑みを浮かべているが、心中は複雑なはずだ。南アフリカW杯は、3大会経験した中でもっとも出場時間が短く、個人的には厳しい大会だった。初戦のカメルーン戦も出場したが、わずか6分間だった。試合直後のコメントではこう語っている。
「やるべきことはロングボールのこぼれ球の処理だけやったんで、集中してできた。勝ち点3を取れて、チームの勢いも出てきたからね。けど、個人的には満足感とかはないよ。時間も短いし……。まぁ日本では強いチームと試合することがないんで、オランダとデンマークとはやりたいよね」
だが、稲本が一番出場したかったオランダ戦で出番はなかった。
日韓W杯の主役が南アでは脇役の守備要員に。
南アフリカW杯のチームでの稲本の役割は、完全に守備要員だった。野球で言えば、リードしている中、8回や9回に守りを固めるために出場する役回りだ。そのため出場機会は、リードしている状況か、もしくは阿部か長谷部、遠藤のボランチが疲労やケガのために、途中交代を余儀なくされた時に限定された。2002年日韓大会で主役を演じた男は、完全に脇役へと転じたのである。
「守備の時っていうのはあるけど、どういう時に出られるのか、自分はさっぱり読めへんかった。だって、矢野貴章も普段、あまりやったことないポジションで、いきなり出たでしょ。フィジカルという特徴を生かして前から相手を追えるから出れたけど、監督は局面を考えて起用しているからね。まぁ自分は、どういう状況でも出たらやるだけですよ。そのためにコンディションはキープしておかないと。コンディションを落とすと試合に出られるチャンスがゼロになるからね」