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“プレーの甘さ”を払拭できるのか?
吉田麻也、「万能なCB」への葛藤。
text by
西川結城Yuki Nishikawa
photograph byTakuya Sugiyama
posted2013/04/13 08:01
ヨルダン戦、痛恨の2失点目につながる突破を許した吉田。それはプレミアとアジアのジャッジの違いを意識したが故の“ためらい”が招いたミスだった。
「スピード」という弱点を補うための様々な工夫。
相手のアタッカーに縦にぶち抜かれた、ヨルダン戦2失点目のあの場面。
吉田はいわゆる“中東の笛”を警戒しすぎてしまったことで、相手に強くアプローチできなかったと回想している。ただ、そうした彼の思惑の背景を抜きにしても、改めて球際の当たりの軟弱さやスピード不足といった面を露呈してしまったのは明らかだった。
吉田は自分にスピードがないことを、自覚している。だからこそ、予測や適正なポジショニング、または相手よりも先にボールに反応する初動の速さといった、あらゆる工夫を施すことで、弱点を補おうとしてきた。
1月末に対戦したマンチェスター・ユナイテッド戦では、ルーニーのスルーパスから相手のアタッカー・ウェルベックが裏のスペースへ抜け出そうとした瞬間、吉田が先にパスコースとウェルベックの動き出しを予測してカバーリングしたプレーがあった。それはまさに彼の読みと初動の速さによって、スピーディな相手を封じた好例だった。
6年前、Jでも見せていた“ヨルダン戦と同型のミス”。
ただ、そうした万全な準備を上回るプレーを相手がしてくる場合も当然ある。ヨルダン戦で吉田が相手に抜かれたシーン、それと酷似したシチュエーションの試合が過去にもあった。
吉田がプロ入りした1年目、2007年に豊田スタジアムで行われた名古屋グランパス対川崎フロンターレのワンシーンだ。
名古屋の吉田はCBの先発で起用され、当時猛威を振るっていた川崎Fの攻撃陣を、高さを生かしながら途中までうまく抑え込んでいた。
しかし後半、吉田は中央から左サイドタッチライン近くまで釣り出されてしまう。対面したアタッカーは、ジュニーニョ(現・鹿島アントラーズ)。次の瞬間、ブラジル人FWは縦に一気に加速し、吉田も遅れまいと懸命に並走を試みたが及ばず。吉田を完全に抜き去ったジュニーニョはそのまま高い位置までボールを運び、フリーで中央の味方にクロス。名古屋は失点を喫した。
ヨルダン戦のミスに対して、吉田は「ここぞというところで、あの背番号10(ハイル)の速さを出させてしまった」と語る。それ以外の場面では、吉田は終始個人でも組織の中でもヨルダン攻撃陣相手に対応できていた。それでもあのたった1回のシーンで相手に自分の武器を発揮され、それが失点につながってしまった。
肝心なところで、敵に躍動を許してしまう。それは6年前、ジュニーニョと相対した時とまったく同じだった。