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PSGは真のビッグクラブになったか?
王様イブラと共に遂げた劇的な変化。
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byGetty Images
posted2013/02/14 13:40
1stレグでいきなりレッドカードのイブラヒモビッチ。アンチェロッティ監督は「終了間際に起こったことは残念」と言及したが、「非常に試合内容がよかった点は喜ぶべき」とした。
PSGにとって悔やまれる最後の3分間。
ボールポゼッションは、試合を通じてバレンシアが60%以上を占めていた。しかしゲームをコントロールしたのはPSGで、前半は攻守にわたりバレンシアにつけ入る隙を与えなかった。
特に攻撃では、この冬サンパウロから鳴り物入りで加入したルーカスのスピードに乗ったドリブルと、前線で精力的に動くラベッシは効果的で、彼らに触発される格好でパストーレもようやく本来の力――ネネやメネズとの連携では生きることのなかったスピーディなプレー――を発揮するようになった。2得点も彼らの連携から生まれた。
後半、選手を入れ替えて攻勢を仕掛けるバレンシアにPSGは押し込められるが、チアゴ・シウバを欠きながら、マテュイディとベッラッティの両ボランチを中心にした守備組織に綻びは生じない。何度か繰り出したカウンターがひとつでも決まっていれば、そこで試合は終わっていた。ルーカスに代わって入ったシャントームの72分のゴールが、オフサイドにより取り消されたのは、PSGとしては納得がいかないだろう。
だが、それ以上に、PSGにとって悔やまれるのは最後の3分間だ。DFが集中力を欠いた一瞬の隙を突かれてのFKによる失点と、試合終了直前のイブラヒモビッチの退場。特に後者は、ラストワンプレーでのまったく余計な出来事であり、イブラの責任は重い。彼抜きで第2戦を戦わねばならないチームに与える影響は大きい。
「僕の子供ですら君らよりまともにサッカーするぞ!」
とはいえイブラヒモビッチが、PSGを変えたのもまた事実である。
個人主義者でエゴイスト。ピッチの上でもロッカールームでも王様で、人の言葉に耳を傾けない。それがこれまでの彼のイメージだった。
実際、パリに来てからも、練習でタックルを仕掛けてきたネネと激しくやりあっているし、ミスをした選手は容赦なく罵倒する。11月24日のトロワ戦では、ハーフタイムにこう言って怒りを爆発させた。
「僕の子供ですら君らよりまともにサッカーするぞ!」
だが、チームに合流して最初の練習から、格の違いを見せつけられた選手たちは、誰も彼に反論できない。
さらに傍若無人なイブラは、カンデロージュの練習場でも、ひとりだけ車を選手の駐車場ではなく、ロッカールームに近いスタッフ専用の駐車場に停めていたのだった。幾度もそのことを注意されると、怒った彼は入口正面に車を移動し、「何と言おうと僕はここに停める。絶対に動かさない。もし(他の車が)こすって傷ができたら、修理代は君が払うんだ!」と、注意を促したスチュワードを威嚇した。後にこの話題で盛り上がったチームメイトたちにも、彼は笑いながらこう言った。
「聞いてくれ、もし僕がロッカールームに駐車したいと思ったら、僕はそうするから」