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PSGは真のビッグクラブになったか?
王様イブラと共に遂げた劇的な変化。
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byGetty Images
posted2013/02/14 13:40
1stレグでいきなりレッドカードのイブラヒモビッチ。アンチェロッティ監督は「終了間際に起こったことは残念」と言及したが、「非常に試合内容がよかった点は喜ぶべき」とした。
UEFAチャンピオンズリーグ・ラウンド16第1戦で、アウェーのパリ・サンジェルマン(以下PSG)がバレンシアに2-1で快勝した。
正直いって驚いた。昨年秋ごろまでのPSGからすれば、チームがここまで劇的に変貌するとはとても想像できなかった。
カタール資本がクラブの経営に乗り出してから1年半。スポーツディレクターにレオナルドを据えて監督にはカルロ・アンチェロッティを招聘、膨大な資金を投入して選手を獲得しながら、チームの強化に成功したとはとても言い難かったからだ。リーグではリヨンの後塵を拝し、優勝はとても無理。レオナルドとアンチェロッティの解任も時間の問題、というのが去年までの状況だった。
アンチェロッティの意図とは裏腹に、チームはいつまでたってもコレクティブなスタイルを確立できずにいた。ネネの個人技とメネズのドリブル、イブラヒモビッチの決定力で違いは作り出せるが、個の寄せ集め以上のものではなかったのだ。
“永遠に不可能な”はずだったディシプリンを身につけたPSG。
“戦術的ディシプリン”に関して言うと、実はリーグアンのレベルは他の欧州リーグと比べてそう高くない。
マルセイユが典型だが、誰が監督になっても個に頼ったスタイルから何故か脱却できないケースが多い。ディディエ・デシャンですらそこは変えられなかったぐらいだから、これはもうリーグ、そしてクラブに染みついた伝統としか言いようがない。実際、PSGもまたマルセイユ同様に、戦術的ディシプリンの高いコレクティブなスタイルを構築するのは、永遠に不可能なのだろうなと私も思い始めていたところだった。
ところがバレンシア戦で見せた彼らのプレーは、まさにその“永遠に不可能な”はずのものだった。
組織的な守備とスピードに溢れた攻撃はどちらもディシプリンに溢れ、攻守の切り替えの速さ――とりわけ守備から攻撃に移る際の、ボールを持たない選手の動き出しの速さは、これまでのPSGには見られないものだった。
このスピードとディシプリンこそ、今日のサッカーにおいて最も基本的かつ重要な要素であり、トップチームとそうでないチームを分けるものである。またヨーロッパのトップリーグとJリーグを隔てるのも、さらにはアルベルト・ザッケローニが日本代表に求めるのも、このスピードとディシプリンなのである。そしてそれを得たPSGは、ようやく名実ともにヨーロッパのビッグクラブ――チャンピオンズリーグでも上位進出を目指せるチームになったのだった。