プレミアリーグの時間BACK NUMBER
今冬の移籍市場、最大のサプライズ。
ベッカムとPSG、双方の複雑な事情。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byWireImage
posted2013/02/12 10:30
1月31日にPSGとの契約を終えた後、背番号32のユニフォームを受け取ったベッカム。「僕はとても幸運だ。37歳で、多くのオファーをもらった」と様々な選択肢の中からパリを選んだことを明かした。
運動量の衰えが目立つベテランをどう起用するのか?
では、現在のベッカムは、どの程度の戦力になれるのか?
その右足からピンポイントで送られたクロスを、エースのイブラヒモビッチが華麗なテクニックでゴールに変える得点シーンは、PSGファンならずとも夢見てしまう。しかし、夢が現実となる機会はそれほど多くはなさそうだ。というのも、出場の可能性が最も高い持ち場は、中盤右サイドではなく、中盤最深部だと思われるからだ。
チームは、昨年末から4-4-2を基本システムとしている。10年前であれば、定番の右サイド先発も期待できたベッカムだが、昔からスピードが武器でなかったとはいえ、30代後半の近年は、アウトサイドでアップダウンを繰り返すための運動量も衰えている。序盤戦ではトップ下を務めていた、アルゼンチン代表のハビエル・パストーレ、ブラジル人新戦力のルーカスらとの右ウィング争いに勝てるとは思えない。
「勝者のメンタリティ」を知るベッカムが若手の手本に。
となれば、残る適所は中央の一角。PSGを率いるカルロ・アンチェロッティが、ミラン監督時代にベッカムを起用したポジションも、やはりボランチだった。
セントラルMFの競争相手にも、チアゴ・モッタ、ブレイズ・マテュイディ、マルコ・ベッラッティらがいるが、常に安定感を醸し出せるのはモッタのみ。そのモッタは、怪我の多さが泣き所だ。今季もリーグ戦10試合出場のみで2月を迎えている。20歳で、母国イタリアが「アンドレア・ピルロの後継者」と期待するベッラッティにとって、奪ったボールをレンジの広いパスで巧みに散らすベッカムとのコンビは、貴重な学習機会となるだろう。
そして何より、チームの「腹部」にベッカムが加わることは、大化け途中の集団に、安心感をもたらすことになる。国内外で重圧が増す終盤戦では、主軸としての国際経験も豊富で、プレッシャーのハンドリングに長けた歴戦の強者が頼りになるが、PSGにはイブラヒモビッチ、モッタ、そしてCBチアゴ・シウバの3名しかいなかったのだ。
中でも依存度の高いイブラヒモビッチは、昨年11月の時点で、「勝者のメンタリティ」を理由にベッカムの移籍を希望していた。
指揮官も、「(パオロ・)マルディーニは38歳でCL勝者となった」と、ミラン時代の絶対的リーダーを引き合いに出して、37歳の加入を歓迎している。