南ア・ワールドカップ通信BACK NUMBER
デンマーク戦を越え決勝Tへ進むには、
元祖“W杯男”稲本潤一が必要だ!
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byFIFA via Getty Images
posted2010/06/22 10:30
豪州戦の悪夢が蘇る試合終盤、稲本の名前が呼ばれた。
「そりゃ代表でもだいぶエエ年になってきたし、経験もあるからね。さすがに、ここであーだこーだ言えないでしょ。秘めたもんは試合に出た時、爆発させますよ」
W杯初戦のカメルーン戦、前半39分に本田圭佑が先制し、日本は優位に試合を展開していた。後半、相手はパワープレーで日本にプレッシャーをかけてきた。DFラインが下げられ、ルーズボールも相手に拾われる。ゴール前で必死に抵抗するも、このまま継続していけば、いつ壁に穴が開くとも限らない。
「厳しい時間が続いていたね」
稲本もそう振り返る。
そして後半40分が過ぎた。
4年前、ドイツW杯豪州戦の悪夢が甦る。あの時はこの時間帯で3発食らい、無様な逆転負けを喫した。
「イナー!!」
アップをしていると名前が呼ばれた。急いでビブスを脱ぎ、準備した。
カメルーン戦は守備に奔走し、岡崎の得点機を演出した。
後半43分、稲本はピッチに飛び出した。
「監督に言われたんは、ロングボールのセカンドボールの処理だけ。役割がそれだけだったんで、集中して入れた」
アンカーのポジションに入った稲本は、身体の強さを生かして、必死にこぼれ球を拾った。それが、終了間際の岡崎慎司の決定的なシュートにも繋がった。ロスタイムの4分が過ぎ、アッという間にゲームが終わった。汗をかく間もなく試合を終えた稲本は、嬉しそうに仲間と握手し、笑顔を見せた。W杯の勝利の喜びは、日韓大会のチュニジア戦以来、8年ぶりだった。
「勝ったのは大きいよ。それまで親善試合などで4連敗していたからね。これで自信がついたと思うし、チームにも勢いがついた。一体感もさらに高まった。2002年の時のような雰囲気とは、まだちょっと違うけど、しっかり初戦に勝てたのは今大会が初めてやからね。最終戦まで結果が分からない状況になったんで、気持ち的にも余裕が出てきた。全員が前を向いている感じがするんで、勝利はすごく大事やなぁって改めて思ったね」