歩きながら、ちょっとずつプライドを置いていく……。

　でも、だからといって惨めさを感じることはなかったと話す。

「見栄っ張りで、プライドは高い方なんだけどね。でも、まあ、クビより惨めなことなんてもうないじゃない。それに日々、新しいことを知る喜びの方が大きかったよ」

　阿井は、プロを引退してからの心の変遷をこう表現した。

「プロ野球を辞めたら、誇りは持っててもいいんだけど、プライドは捨てていかないとダメ。いきなりは無理だけど、歩きながら、ちょっとずつ置いていくの」

　体験した者にしかわからない苦労と葛藤がしのばれる言葉である。

日本ハムと契約した時点で、高校野球の指導資格は失効する。

　ここ数年、NPBが若手選手を対象に、引退後の進路希望アンケートを実施しているが、その第1位はたいてい高校野球の指導者だ。昨年は、28.4パーセントの選手が第1位に挙げている。

　つまり、プロ野球選手のセカンドキャリアとして、阿井の現在は、ひとつの到達点でもあったわけだ。

　今回の選択をするにあたり、阿井は散々迷ったのではないだろうか。なぜなら、プロと契約した時点で、そのアマチュア資格が失効してしまうからだ。

　阿井のようなケースは前例がないため、プロの世界から離れ、再び高校野球の指導資格を申請したとき、どうなるかは未定だという。あるいは再度、教諭、または臨時講師として2年間、教壇に立つことを義務づけられるかもしれない。また、赴任先も、すぐに見つかるとは限らない。

　そして何より、プロ野球は「小さな世界」だが、やはり「夢の世界」だ。それだけに、再びプロ野球界で職を失ったとき、そこから抜けだし「大きな世界」に順応するには、相応の時間を要するはずなのだ。

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