スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
“スペインのフィーゴ”が帰ってきた!
ホアキンが謳歌する「第二の青春」。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAFLO
posted2012/12/01 08:01
マラガの躍進を支えるホアキン(中央)。チームは初出場のCLでGL突破を決めている。
信頼できる監督との出会いが眠れる才能を引き出した。
遅刻の常習犯であり、規律に縛られることを苦手とする気まぐれな天才児に対し、マヌエル・ペジェグリーニ監督は自由を与えることで奔放なプレーと自信を取り戻すことに成功した。そんな指揮官に対し、ホアキンは尊敬の念を隠さない。
「監督の就任時、チームは降格の危機に瀕していた。チームを降格から救い、多くの新加入選手と共にゼロから作り直すのは簡単なことじゃない。マヌエルじゃなきゃできなかったことだよ」
ベティス時代はオーナーのエゴによりレアル・マドリーをはじめとしたビッグクラブ移籍のチャンスを潰され、バレンシア時代はどの監督からも信頼されず、コンスタントにプレーすることを許されなかった。そうやって20代のほとんどを不完全燃焼のまま過ごしてきた彼は、ようやく自身の能力を最大限に生かしてくれる上司と環境に巡り会うことができたのである。
「CLの決勝に辿り着く。そうなればパーフェクトだ」
乗りに乗っている現在のホアキンには、失敗すらも笑い話に変えてしまう勢いがある。8節バジャドリー戦ではあの韓国戦を彷彿とさせるPK失敗を犯しながら、その2分後にGKを華麗にかわす見事な決勝点を決めてみせた。さらに4日後のCLミラン戦では再びPKを失敗。そしてその後に再び決勝点を決めるという珍事を繰り返し、2試合連続で「自作自演のヒーロー」となったのである。
「失敗した瞬間は“なぜ? なぜまた?”と考えたよ。軸足が滑っちゃってね。監督に言われたらまた蹴らなきゃいけないけど、2回も失敗したんじゃ……さすがに3度目はないと思うけどね」
試合後に浮かべた苦笑いもご愛嬌。おかげでPKのキッカーからは外されたものの、早くもリーガで3ゴール、CLで2ゴールを挙げている今季はベティス時代の自己記録であるシーズン9ゴールを上回る可能性が高くなってきた。
「今季のマラガが過ごす物語はどんなハッピーエンドを迎えると思う?」
先日、あるインタビューの最後にそう問われたホアキンは、次のように答えた。
「チャンピオンズの決勝に辿り着くこと。そうなればパーフェクトだ。マヌエルは僕らに言うんだ。この時を楽しめ、でも野心を持ち、自分達はどんな相手にも勝てると信じろ、とね。ミラン戦の夜、子供のように泣きじゃくる父親に抱きしめられたことはずっと忘れないだろうな。今そのことを話すだけで鳥肌が立ってしまうよ」
第二の青春を謳歌するホアキンとマラガの物語は、はたして理想のハッピーエンドにどこまで近づくことができるだろうか。