スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
“スペインのフィーゴ”が帰ってきた!
ホアキンが謳歌する「第二の青春」。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAFLO
posted2012/12/01 08:01
マラガの躍進を支えるホアキン(中央)。チームは初出場のCLでGL突破を決めている。
マラガを襲ったチーム存亡の危機に翻弄された。
1年目のシーズンは、チームがクラブ史上初のCL出場権を獲得した一方、ホアキン自身はリーグ戦23試合出場2得点にとどまってしまう。相次ぐケガに苦しんだとはいえ、その数字はバレンシア在籍時のどのシーズンよりも低いものだっただけに、彼にとってこの1年が期待外れに終わったことに変わりはなかった。
そして迎えた2年目の今季、復活を期すホアキンはプレー以前の問題に苦しむことになる。オーナーからの送金が途絶え、支払いの不履行によるチームの3部降格とCL出場権はく奪の危機に直面したのである。
当面の資金ねん出のために主力の放出が相次ぐ危機的状況のさなか、ホアキンの元にもディディエ・ドログバ擁する上海申花から破格のオファーが届いた。結局彼は「自分はいつも金より人生の充実を求めてきた」としてそのオファーを断るのだが、恐らく簡単な決断ではなかったはずだ。
「最悪の時間を過ごしたよ。毎朝目を覚ますたび、何が起こるのか想像もつかなかった。クラブを出て行くのか、出て行かないのか。給料は払われるのか、払われないのか。最悪なのは、何がどうなっているのか説明できる人間がいなかったことだ」
最悪の状況から一転、快進撃を続けるチームの立役者に。
そんな混沌状態で迎えた8月28日。チームは「マラガ史上最も重要な一戦」と位置付けて臨んだパナシナイコスとの予選プレーオフを制し、史上初のCL本戦出場を決めた。
同時にUEFAから得られる補強資金を確保したクラブは、直後にハビエル・サビオラ、ロケ・サンタクルスらを獲得。経済、スポーツの両面で最悪の状況を脱したマラガは、リーガとCLで快進撃を見せている。そしてホアキンのプレーにも、試合を重ねるごとに往年のキレが戻っているのだ。
今季のホアキンは31歳にして新境地を開拓した感がある。
バレンシア時代は「サイドに張り付いて上下動を繰り返すだけの旧型ウイング」と批判されることもあったが、今の彼は時にウイング、時にトップ下、時にストライカーと自由にポジションと役割を変えながら、イスコ、ポルティージョら若きアタッカーと共に伸び伸びとマラガの攻撃をけん引している。