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<トライアウト直前・独占告白>
一場靖弘 「自分はまだまだ終われないんです」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byToshiya Kondo
posted2012/11/08 13:35
戸田球場のブルペンで一心不乱に球を投げ込んでいた一場。同時期にヤクルトから戦力外通告を受けた選手の今後では、現役引退してコーチになった者、他球団の用具担当スタッフになった者、まだ今後を未定とする者など、様々な選択があった。
そして、運命の10月2日。戦力外通告が言い渡された。
10月1日。戸田球場での練習後、ヤクルトの合宿所まで歩いて戻った一場は、編成部の人間から「明日、球団事務所まで来てくれ」と告げられる。すでに、覚悟はできていた。
翌日、球団事務所では、「楽天からうちに来て、環境が変われば良くなるかと思ってこちらとしても期待していたんだけど……」と、戦力外通告を切り出された。
「その前から気持ちの整理はついていたんで、特に驚きはなかったです。結果を出せなくて申し訳ないな、と思ったくらいです」
翌日から一場は、トライアウトへ向けて動き出した。
10月は気持ちをリフレッシュさせるためにキャッチボールや遠投、ノックといった軽めの練習で汗を流すとともに、徐々に本格的な投球ができる体を作っていく。そして、11月からはほぼ毎日、ブルペンで50球以上の投げ込みを精力的に行っている。
「やっぱり家族のためにも、自分はまだまだ終われないんです」
現在、コンディションはいい。一場は、トライアウトへ向けて意気込みを語る。
「ピッチャーは真っ直ぐがあってこそ生きるんで。前みたいに真っ直ぐで押すスタイルをバンバン見せて、『自分は投げられるんだ』というところをアピールしたいです」
「あと……」と、一場は言葉を繋ぐ。
「子供に僕の背中を見てほしいんです。上の娘は楽天時代にお立ち台で抱っこしてあげることができたんですけど、下の息子にはそれができていないんで。やっぱり家族のためにも、自分はまだまだ終われないんです」
11月9日の合同トライアウトはクリネックススタジアム宮城で開催される。かつて、一場がホームグラウンドにしていた場所――。
「入るときも仙台で、再挑戦する場所も仙台……。縁がありますね。少しでもパワーをもらえればいいんですけど」
一場は、そう言って愛嬌のある笑みを浮かべる。
しかし、眼光だけはずっと鋭いままだった。