野球クロスロードBACK NUMBER
ソフトバンクの短期決戦と言えば?
“持ってる男”森福允彦への信頼感。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2012/10/16 12:10
昨年の日本シリーズ第4戦で見せた「森福の11球」を彷彿とさせる投球内容で、今季のCSファーストステージ第1戦、第3戦において見事に投げきった。
“やめてくれ……”
一塁側ブルペンで待機していた森福允彦は、心のなかでそう呟いていた。
10月13日クライマックスシリーズ(以下CS)、西武とのファーストステージ初戦。2対0とソフトバンクのリードで迎えた9回、火消し役でマウンドに上がったファルケンボーグが、まさかの大誤算となった。
先頭の中村剛也を四球で歩かせると、続くオーティズには二塁打、ヘルマンにも四球を与え、無死満塁と逆転サヨナラの大ピンチ。たまらず、秋山幸二監督がベンチを出る。
ピッチャー、森福――。
「まさか出番が来るとは思いませんでした。『やめてくれ』とは思っていましたけど、ブルペンにいたときからコーチに『バックアップしてくれ』と言われていたので、いつでも行ける準備はしていました」
わずか9球……冷静なマウンドさばきでチームの危機は去った。
マウンド上では、いつものルーティンを淡々とこなす森福の姿があった。
右足を少し、ふらっと上げ、左腕を垂直に伸ばしてひじを曲げる。そしてもう一度、右足を上げ、腰を左側に捻り、セットポジションからゆったりとした投球モーションに入る――。
1人目の打者である代打のカーターを、1球でショートゴロに打ち取る。この間に1点を奪われたものの、「2点差だったので、『1点はOK』という意識でした」と本人が言っていたように動揺しているそぶりは微塵もない。
「あれは大きかった」
森福が手応えを掴んだのは、続く上本達之との対戦だ。
外野フライで同点のこの場面、森福は三振を奪うつもりで内角高めのボールで相手を意識付けさせ、外角高めで勝負する。結果はショートフライだったが、得点を与えないだけでも十分だった。
最後の打者となる代打の高山久をセンターフライに仕留め、わずか9球で試合を締めくくる。森福の冷静なマウンドさばきがチームの窮地を救ったのだ。