スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
香川真司と緋村剣心。
~名優はマンUで輝けるか?~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2012/08/25 08:02
20日のエバートン戦でプレミアデビューを果たし、フル出場した香川。地元紙の評価も上々だった。
映画の話をするとき、私はときどき香川真司を引き合いに出す。
一度は、ポール・ニューマンの位置取りを説明する際に、比喩として使わせてもらった。ニューマンはスターだが、生粋のストライカーではなく、むしろトップ下の1.5列目で面白いプレーをする俳優だ、という具合に。
最近では、『るろうに剣心』の佐藤健の殺陣を見て香川真司を思い出した。佐藤健が扮する緋村剣心は、細身で撫で肩なのに、めっぽう腕が立つ。敵役の吉川晃司や綾野剛が豪快さや妖気を振りまくのと対照的に、見た目や動きがとても柔らかい。なのに、剣心は速い。相手の動きを読み、するりと内懐に入り込み、いつの間にか敵を倒している。
もっとも、これは香川真司の理想像だ。マンチェスター・ユナイテッドに加入した今季、思いどおりのプレーができるかどうかは、やはり未知数というほかない。
ルーニーとのパス交換も、“想像力のひらめき”はさほど感じさせず。
というわけで、私はユナイテッドの初戦を楽しみにしていた。2012年8月20日の対エバートン戦。試合は0対1で敗れたが、香川は先発し、90分をフルに戦ってピッチをあとにした。まずまずのデビューである。
ユナイテッドは4-2-3-1の布陣を取った。香川の位置はトップ下。ルーニーがワントップに入り、2列目は、右からナニ、香川、ウェルベックの形だ。ただし、この基本形はきわめて流動的。トップ下を主戦場としつつ、しばしばアタッキング・サードの左サイドでも動いた。
見せ場は何度かあった。ルーニーとのパス交換もスムーズだった。シャビとメッシ、あるいはイニエスタとメッシのような眼をみはる化学反応こそ起こらなかったものの、呼吸はかなり合っているように見えた。ただ、凄みはない。危険なことを起こしそうな想像力のひらめきも、さほど感じさせない。中盤のパス交換で相手のリズムを乱そう、という教科書どおりの動きにしか思えなかったのは、やはり物足りない。