セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
ナポリとローマから目が離せない!
今季スクデット戦線も下克上の兆し。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2012/08/24 10:30
愛煙家として知られるナポリのワルテル・マッツァーリ監督。イタリア・スーパーカップでの騒動で1試合のベンチ入り停止処分を受け、開幕戦は指揮を執れなくなった。
ナポリとローマが手を携えて、ユーベ包囲網を築く。
毎年開幕前になると、マッツァーリはチーム成績のシーズン目標を明確にする。曖昧にしないのは、彼流のプロフェッショナルとしての矜持だ。CLへの2季連続出場ならなかった今季、シーズンの最優先ターゲットは、1990年以来遠ざかっているスクデット奪還に他ならない。マッツァーリとナポリにとって、ついに機は熟した。
「今季はスクデットを狙う。必ずや素晴らしいシーズンにする」
ただし、優勝争いの手だれであるユベントスに、経験の浅いナポリが単身挑むには自ずと限界がある。王者ユーベを追い詰めるには、友軍的ライバルチームの存在が必要だ。
「ユベントスの優勝回数? 私が数えたところでは、22回か23回のはずだが……」
アンチ・ユーベの2番手は、毒舌家の名将ゼーマンを迎え入れたローマを置いて他にない。
アンチ・ユーベの急先鋒である名将が、ローマへ帰還。
13年ぶりに古巣ローマへ復帰したゼーマンは、東欧プラハ出身の反骨漢だ。
まだ旧共産主義国出身者の匂いを発散させていた前任時代の'98年、ユベントスを名指しする形でサッカー界に蔓延していた薬物汚染を告発した。今もゼーマンの名は、ユベントスにとって禁忌に等しい。アンチ・ユーベの象徴として、指揮官は今なおサポーターから熱烈に愛されている。
ゼーマンの帰還を誰より歓迎したのが、若き日の薫陶によって一流への階段を駆け上った主将トッティだ。
心酔する恩師の夏季キャンプは、徹底した走り込みが名物。20kgのウォーターバッグを担いで走るメニューにも率先して取り組み、「18歳に若返った気分だ」と左サイドアタッカーへのコンバートも受け入れた。
運動量で相手を圧倒する攻撃サッカーはゼーマンの代名詞。アメリカ人投資家グループによる経営陣の後押しもあり、ローマはアメリカ代表MFブラッドリーやイタリア代表DFバルザレッティなど今夏も積極補強を次々に進めた。
「このチームがスクデットを勝てない理由はない」
とりわけ今夏市場の目玉だった21歳のFWデストロの獲得成功は、ライバルたちへ大きなインパクトを与えた。北の3強も熱望した国産若手大型センターフォワードの争奪戦は熾烈を極めた。
デストロは国際的にはまだ無名だが、次世代のアッズーリを背負って立つ逸材だ。15日のイングランド戦で待望のフル代表デビューも果たしたばかりの本人も、来るシーズンへはやる気持ちを抑えられない。
「ゼーマンの指導があれば、昨季以上のゴール(昨季13得点)を挙げるのは容易だ。来年2月か3月に上位につけていれば、スクデットも夢じゃない」
若手育成の名匠としての顔も持つゼーマンの下でどれだけ成長するか、期待と注目も高い。
7月下旬、炎天下のオリンピコ・スタジアムで行われた新チームの御披露目には、1万5千人ものサポーターが駆け付けた。13年ぶりの帰還に、普段はポーカーフェイスを崩さない指揮官が感極まる姿も。米国ツアーも成功し、現場には近年になかった一体感が充満している。指揮官は宣言した。
「今季は70ゴールを奪う。このチームがスクデットを勝てない理由はない」