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パ・リーグ首位争いで必見の2人!!
ロッテ・荻野貴と西武・田中の期待度。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2010/05/07 10:30
ルーキー雄星の「影武者」と呼ばれていた田中靖洋は、待望の先発で3回4失点。「初回は力んでしまった。いい雰囲気の中で自分の力が発揮できなかったので悔しい」と肩を落とすも、渡辺監督は及第点を与えていた
西武期待の本格派右腕、田中靖洋の実力とは?
石川・加賀高校に在籍していた'05年10月、高校生ドラフトで西武から4巡目で指名され、今年がプロ入り5年目になる22歳。昨年まで一軍未勝利というか、登板すらしたことがなく、田中本人より現在は渡米(マイナーリーグで活躍中)しているロッテ1位指名右腕、兄・良平のほうが有名なくらい、名前が知られていない。
どうしてこの田中を見たかったのかというと、3月12日に行われた教育リーグ、西武対楽天戦に登板した姿を見てしまったからだ。一目ぼれだった。球が速い、カーブ、スライダーのキレがいい、ピッチングフォームがいいという3拍子が揃った右腕で、どうしてこれほどの投手が無名のまま放って置かれるのか怒りすら覚えた。
偶然話す機会があった編成経験のあるスカウトに田中の話をすると、「いいピッチャーですね。あんな若手、うちにはいません。ただ、イップスにかかっていたみたいですよ」と教えてくれた。イップスとは精神的に委縮して腕を振れなくなることを言う。
ちなみに、このときの最高球速は144キロで、登板した7人の中では最も速く、翌13日の西武対中日のオープン戦でも田中以上の球速を記録したのは浅尾拓也(中日)1人だけ。西武勢の涌井秀章、藤田太陽、土肥義弘、シコースキー、中日勢のチェン、清水昭信、バルデスですら、144キロの球は投げられなかった(西武ドームのスピードガンは数字が抑えられている)。
素質のよさが光った田中の初登板。
この田中が4月29日、どういうピッチングをしたかというと、3回投げて被安打6、与四球3、奪三振2、失点4で、早々と降板している。しかし、素質のよさは十分見せつけ、球場に入る前より今後の活躍に確信が持てた。
ストレートのMAXは145キロで低目の伸びもいい。3月より腕の振りが大きくなっていたのは一軍初登板、それも予告先発だったため「いいところを見せよう」と力んだ結果で、これがさまざまな部分に悪影響を与えたのだと思う。スライダー、カーブが3月のときよりコントロールが悪く、さらに変化点が早かったので、ストレートをカウント球で使わざるをえなくなり、それを1回、荻野、金泰均、大松尚逸に狙い打ちされ3失点につながった。
今後の課題は変化球のキレ、コントロールをよくすることは当たり前だが、それ以外にも、フォークボールかチェンジアップのような“落ちる系”のボールを習得することが必要である。前途は多難そうだが、スライダー、カーブのキレ、コントロールは元来いいほうである。それが安定して発揮できるかどうかが問題だが、この課題を克服できれば、西武にとっては実に貴重な先発投手が1枚加わることになるだろう。